「ORIST技術交流セミナー・ビジネスマッチングブログ第43回勉強会 AI活用「成功」の方程式 〜AI活用最前線と人材育成〜」その②

AI活用「成功」の方程式 〜AI×ビジネス活用の勘所〜

2部:事例 『AI活用「成功」の方程式 〜AI×ビジネス活用の勘所〜』

第2部では、非エンジニアでありながら独学でAIを学ばれた株式会社エルアンドエーの田原さんから、クリーニング店でAIを導入された事例を紹介していただき、それに対する専門的見地からのアドバイスをキカガクの多森さん、花本さんからいただきました。

田原さん(エルアンドエー)中小(零細)に近いのですが、福岡県田川市に8店舗ほどクリーニング店を経営しており、従業員は平均47歳くらい最高年齢70歳、97%くらいは女性の会社です。

田原さん(エルアンドエー)

当初はITの知識もなかったので2008年から既存のITサービスであるskypeを全店舗導入してビデオ通話でシミのチェックの相談などに活用しました。2013年からは既存のITサービスに限界が見え始め、自社の物流の課題解決に外注だと100万単位の経費がかかることを知り、しかもそれがうまくいく保証もなかったので、一念発起してプログラミングを自前で勉強し、2016年から自社のAI開発を始めました。

犬と猫が認識できるんだったら、ズボンとシャツも認識できるんじゃないか?

実は2015年に下記のような仮説を立てまして、結果としてそれが良かったのかなと…。

  • 犬と猫が認識できるんだったら、ズボンとシャツも認識できるんじゃないか?
  • 機械学習のワードプレスが出るのも時間の問題だろう?

現在の取り組みは、クリーニングのセルフレジというもの(AIを使ったセルフレジ)です。来年くらいに無人店舗化を考えていますが、その前段階として今はセルフでやるという顧客体験がまだ世の中にないので、それがどこまで浸透できるかというところの調査・改善をやっています。

AIを使ったセルフレジ

前半にAIの精度の話がありましたが、洋服を認識するのに、最初は100%AIに判断させるのを考えていましたが、そこは自分のエゴなのかなということで、結局はお客さんに選んでもらう方式に落ち着きました。100%当てるのではなくて、推論された後の候補を3、4個に絞ってからそれを画面に提示し、そこからお客さんに選んでもらうことにしました。

半年間運用してみての感想ですが、お客さんはそもそもAIに全く興味がないです。(笑)
お客さんが新しいやり方が便利かどうかで判断すればいい、それだけです。

利用者は40歳代から60歳代ですが、一度セルフレジを試したお客さんは、9割くらいはそのまま継続利用してくれていますので、それなりに満足はしているようです。


多森さん(キカガク)からAIを実装する上でのポイントは・・・

多森さん(キカガク)

通常のシステム導入と同じく、人間が行ってきた業務プロセスの中でどこをAIに担ってもらうのかということを事前にしっかり詰めておくことが大事かなと思います。

財務の観点からは、通常のシステム導入と違ってAI特有の不確定要素が概ね3つあります。

  1. AIでどれだけの予測精度が実現できるかという点。
  2. 予測精度が不安定な場合は、人の手でリカバリーしないといけないのですがそのリカバリー策をどのようにするのか?どれだけの人手がかかるのか?またそれに対する費用。
  3. 3つ目はアルゴリズムで、どういった具体的技術でそのアイデアを実現するのか?

これら3つの不確定要素によって費用対効果(ROI)が変わってきます。

従ってGUIを使って事前に簡単でもいいので仮説検証(POC)する、そういったところが費用対効果を上げていくコツです。


田原さん(エルアンドエー)AIの導入を選んだ背景は、お金がない(業界の状況)、人がいない(地域的理由)、できる人が少ない(スキル分布の問題)、そもそも相手にされない(自分でやらないと解決できそうにない)の4点でした。

2018年からセルフレジの運用を始めていますが、大事な洋服以外の制服的な洋服をセルフレジに通す人が多いですね。Yシャツやスーツなど、とにかく早くて安ければいいという方々が利用しています。

やってみての感想は、データ収集(アノテーション)が一番大変であり肝(詳しい説明がありました)でもあるという話です。ここはアウトソーシングではなく自社でやった方がいいと考えています。

機械学習のところは本当に分からないことだらけで、掘れば掘るほど新しい研究成果が出てくるので追いきれません。それよりも、どんな経営課題を持っていて、どういう手段で解決したいですか?というところの方がすごく重要になってくると思います。

当社も、セルフレジを採用した理由は、より良い顧客体験をどう産むかということを一番の課題にしているためです。これって答えがないから余計に面白かったりします。


それでは法務の視点から花本さん(キカガク)アドバイスいただけますか。

花本さん(キカガク)

新しい事業や新しいビジネスを始めるときは必ず法律が一緒になります。一番初めの構想段階、AIの技術特性を知ったうえで自社のビジネス上の課題を正確に把握してAIを入れて、投資対効果を測りながらどのようにして課題解決していこうかという段階なのですが、AIもこれから法規制とかでてくるので、構想企画段階から法務担当者に入っもらった方がいいですね。

また、事業を外注に出す場合、知的財産の関係でデータを保護するには、法整備が未だ整っていないので、契約で利用制限を設ける必要があります。確実なのは契約書で制限することです。

事業会社と開発会社の役割分担

それでは最後に、田原さんの経験則に基づき、事業会社と開発会社の役割分担の話をしてまとめにしたいと思います。

  1. データ収集とサービス展開に事業会社がどんどん入っていくということが重要(自前でサービスまで作ったというのが後々活きてくる)
  2. モデル作成に関しては、今は開発会社が主体ですが、今後事業会社でもやれるようになるんじゃないか?(しかし、機械学習に手をつけて、変数どうするんだとか、精度どうするんだとかいうのは、エンジニアリングの知識がもっといるのでこれはやめた方がいい)
  3. 開発会社の腕のみせどころは、その技術でどんな顧客体験を作れるのかを売りにできればそこがポイントになる。(問題解決手法の提案)
  4. AI開発の4つのフェーズのうち、1つでも多く内製化できた方がいいのかなと私は思っている。(教師データの作成は大変。でもここはチャンスで、みんなやりたがらないからやったもの勝ち)

 

クラウドサービスはまずやってみる事がなによりも重要だし、勉強会やイベントには泥臭く参加することを薦めます。(田原氏談)

AI活用「成功」の方程式 〜AI活用最前線と人材育成〜

本日は皆様、ご静聴いただきありがとうございました。これにて第2部を終了いたします。