産技研セミナーBMB第29回勉強会報告

産技研セミナー・BMB第29回勉強会
「ロボティックス&デザインによる看工融合の最前線」
報告書

参加者:41名
日 時:平成26年7月15日(火)15時~17時半
会 場:マイドームおおさか4階 セミナー室(大阪市中央区)

 産技研セミナー・BMB第29回勉強会「ロボティックス&デザインによる看工融合の最前線」では、保健看護学と工学の融合分野である『看護工学』の実践・教育に取り組んでおられる大阪大学大学院 医学系研究科 特任教授の山田憲嗣氏と研究生の中島徳士氏をお招きし、看護・保健業務を工学的な視点からサポートする有意義な取り組みについてご紹介をいただきました。
 平成25年に新しく立ち上がった看護理工学会の牽引役でもある山田氏からは、「医療・看護・介護分野における工学的アプローチ」と題し、看工連携の現状と展望についてお話をいただきました。工学系の立場で臨床研究に携わってきた山田氏の目には、医療現場におけるヒューマンエラーや、看護環境における患者と看護師双方に及ぶメンタリティーなど、改善点を上げれば枚挙に暇がないという状況です。

山田憲嗣氏

 例えば看護師の詰所では電子レンジを使って患者の身体を拭く蒸しタオルを用意するなど、日常的に本来の利用目的以外で使用される家電製品がとても 多いことに疑問を呈されています。このような現場の行動観察によって問題点を見出し、解決策を導き出すアプローチから以下の5つの研究事例をご紹介いただ きました。

研究事例1)入院患者さんが眩しくない夜間巡視用ライト
 ペットボトルの飲み口と防眩フィルムを組み合わせた簡易フィルターをこしらえ、懐中電灯のガラス面を覆うことで低価格で課題解決を図った。看護師さんに機能面では好評だったが、接着のためにグルグル巻きにしたガムテープが不評。

研究事例2)正確な薬の量を投与できる注射器
 今まで看護師のスキルに頼っていた薬の投与量を、注射器シリンダー内にわずかな凸部を設けることにより、指に抵抗を感じさせることで解決を図った。

研究事例3)看護師の行動記録が取れるボールペン
 計測から解析へという工学的アプローチの例だが、3色ボールペンにセンサーを仕込み、看護師の業務と時間の把握を試みた。余談だが黒のボールペンを使っている時間=看護記録を書いている時間が一番長かった。

研究事例4)排尿センサー
 おむつの中にチップ(RDIFタグ)を埋め込んで尿を検知。濡れることにより電波が途切れるという逆転の発想で機能。おむつ交換から5分以内に排尿することが多いという特徴もデータを通して考察することができた。

研究事例5)ラマン分光に基づく涙液中薬物濃度測定による処方薬服用確認手法の検討
 涙の中に薬物が入っていることをラマン分光法によって測定。抗てんかん薬などの服用確認に効果が見られた。

 後半には、医工連携の最先端である、スタンフォード大学のバイオデザイン・プログラムについても報告がありました。バイオデザインとは、病院の抱える問題を 解決するために、工学部、経営学部、医学部から選抜された学生がチームをつくり、臨床の現場で処置を観察しながら改善策を出し合い、そのうち最良のアイデ アについて医療機器のプロトタイプを開発する仕組みです。
 これを学ぶフェローシップコースには、全世界から140名を超える応募があり、ワークショップや面接など経て最終合格者は8名の狭き門だそうです。シリコンバレーにおいて、優秀な医療機器ベンチャー企業が輩出される要因には、このような人 材育成システムが充実している他にも、ベンチャーキャピタルなどの投資家の存在も大きな役割を果たしているとのことです。


 次いで中島氏からは、「プロダクトデザインのアプローチからの医療・看護・介護機器の開発」と題し、大阪工業大学工学部を経て名古屋市立大学にてプロダクトデザインを学んだ経験から、医療・看護・介護分野における製品開発紹介がありました。

中島徳士氏

 まず、SF映画スタートレックの「コミュニケーター」や、同じくスタートレックの医師Dr.マッコイが使用する「トライコーダー」を上げ、前者が携帯電話の原点であり、後者が小型医療機器兼探知装置の理想形であるとの話題提供とユニークな分析がありました。

 
 実際にもQualcommがスポンサーになった『Tricorder X-Prize』は、基本的な健康情報を測定して15種類の病気の診断ができるポータブル・センサーを開発するトライコーダーの開発コンテストであり、医 療機器が身近なものになりつつある近未来の生活を予測しています。


 また医工連携における研究開発事例では、名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 芸術工学部に在籍しプロダクトデザインを学ぶ過程で関与した下記のプロジェクトについて報告がありましたが、詳細は割愛させていただきます。

・使いやすく、人体を傷つけない喉頭鏡の開発
・低負荷高効率に薬剤投与可能な経肺薬吸入機(ネブライザー)
・人間の骨格筋モデルを利用したロボットアームの設計要件に関する研究


 最後に大阪大学の講座では、看護工学分野の推進、さらには医・看・工融合分野の開拓を行うことにより、患者や高齢者など総合医療の質の向上を目指していると のことで、最近では、厚労省における科研費のテーマに新たに「看護工学」の項目ができ、日本でもこの分野の推進に繋がるであろうと一定の評価をされていました。
 今後は、看護理工学会の活動を通して関西のバイオデザインのネットワークを充実させるためにも、看護機器の開発やデザインに興味のある中小企業、デザイナー、投資家の参加を歓迎するとのことでした。