NOKORI-FUKU のこり福 ワインタオル
ORIST技術交流セミナーBMB第38回勉強会開催報告
- 2018/01/05 12:00
- 投稿者: kawamoto(oidc) カテゴリ:BMBオフ会
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BMB会員の皆様、あけましておめでとうございます。
BMB事務局(大阪府産業デザインセンター)の川本です。
去る12月19日、「ニューラルネットワーク・機械学習のしくみと産業活用」をテーマに行われたORIST&BMB第38回勉強会は、46名の参加を得て盛況に開催することができました。
遅くなりましたが、ここに開催報告をさせていただきます。
基調講演:「ニューラルネットワークの基礎とMATLAB®を使った予知保全/故障予測」
MathWorks Japan アプリケーションエンジニア部 井上道雄 氏
MathWorks社が開発するMATLAB(数値解析ソフトウェア)には様々な機能があるが、今回のセミナーでは、機械がいつ故障するかということを予測させ、AIが予知保全にも使えるという事例により、プログラマー以外の人達にもプログラマーが得ているメリット(自動化、機械学習など)を感じていただけるようにしたいという主旨の内容でした。
講演で受けたMATLABの印象は、顧客視点で現場の使いやすさを第一に考えており、システム構築する上での機械学習以外の要素に対する重要性とMATLABのサービスについての話も印象に残りました。
また、講師の井上氏は率直に機械学習の向き不向きや使いどころなどを話されており、実際のデモと合わせて機械学習の現在の状況をこれ以上期待できないほど身近に感じることができたように思います。
機械学習の活用事例
最初に人のまばたきを検知するデモが行われました。そのデモで示されたことは、機械学習とは過去のデータを使い、何らかの仕組み・傾向を自動で抽出できるようにするアルゴリズムということです。
それと関連する有名な用語にディープラーニングがありますが、ディープラーニングは機械学習の1つの手法にすぎず、全てのものに対してディープラーニングがベストということにはならないという話でした。
機械学習を利用すべき場面
例として、画像からその人がヘルメットをかぶっているかどうかを認識させるプログラムを作るとします。手作業で条件を指定することも可能ですが、黄色いヘルメットを被っているのを判定するのに頭部のあたりが黄色いと条件を決めても、背景が黄色かったりするとうまくいかなくなる。つまり、条件を指定すると応用が効かない。
そういった場合に、[ヘルメットを被っている/被っていない]というたくさんの画像を用意して、自動でどのような特徴があるかを認識(学習)させる、これが機械学習の得意としているところです。
うまくいかない場合もあるが、うまくいくと非常に柔軟にいろんな状況に対して判断ができる仕組みを作ることができます。
実際の活用事例
●ドイツのMondi社の事例
機械が故障で止まってしまい、毎月数億円のコスト増に繋がっていたため、機械学習を活用してモニタリングシステムを構築した。センサーにより回転速度、温度等のパラメータを見ながら常に機械の状態を判断するという仕組み。センサーデータから診断結果が赤で表示されると、そろそろ壊れそうだから誰か手を貸してくれというメールを発信するようになっている。多額のコスト削減に繋がった事例。
統計学の専門家がいない現場のエンジニアの方々に気軽に機械学習を使っていただけた典型的な事例。MATLABのスタッフと協力して6ヶ月でモニタリングシステムを立ち上げることに成功した。
●喘息の発作が発生しているかどうかの検知(医療分野の事例)
iPhoneで音を拾って、それをサーバーに送信・判断する。この事例の特長は商品化に繋げたこと。MATLABがボタン一つで他のプログラミング言語に変換してくれるため、商品への実装のプロセスが簡略化できる。先のMondi社の事例紹介でも、MATLABの入ってない工場のPCにアプリケーションとしてインストールし、幅広く展開することができました。商品(アプリ)化は現実味のある問題です。
●農業IoTの事例
Arduinoに搭載したカメラでカイワレ大根の生育状況をモニタリング。カイワレが伸びていくのをThingSpeakで可視化。ある一定の長さになると「カイワレがそろそろ食べごろですよ」とメールやTwitterに自動送信するという仕組み。
●交通量調査の事例
人力で行なっていた交通量調査を、Raspberry Piに接続したカメラとThingSpeakを使って自動化した事例。ビデオカメラで道路の交通状況を撮影しながらハードウェア上で画像処理を行い、単なる車の数に変換してデータ量を減らしてサーバーに上げる。得られた交通量などの結果はWebブラウザ上で確認できるという仕組み。
ニューラルネットワークの基礎
ニューラルネットワークを業務に使っているという方は、会場に3、4名おられました。
紙面の都合で多くは割愛しますが、講演ではニューラルネットワークの学習の仕組みの話がまずありました。キーワードはウェイト、教師データ、誤差逆伝搬法などです。
会場では、ニューラルネットワークを使ってその人が何をしているのか、行動を判別する機械学習のデモがありました。読書をしている、マウス操作しているなどの判別です。加速度系のセンサーデータを元にして行なった具体的な作業デモ内容でした。
ディープラーニングのデモの紹介もありました。道路の車線を検知するデモ、画像の中に写っているものを認識させるデモなどです。画像分野におけるディープラーニングでは、ピクセル単位で認識する技術の紹介もあり、稚魚や血液といった対象がミクロな場合の事例にも触れられました。ちなみにこの手の判別に使うアルゴリズムは「分類」と言われ、デモでは「分類学習器アプリ」と呼ばれていましたが、他のケースでは「回帰」というアルゴリズムを使う別の学習器が用意されているようです。
会場からは精度を出すのに必要なデータ量の質問があり、その話の中で井上氏から転移学習の活用例の紹介がありました。
予知保全
ある火力発電所の研究報告によれば、発生する故障の60%以上が(故障予防のための)メンテナンスを行なった一週間以内に発生しているという事例があります。複雑なシステムの場合、人為的に故障の原因を入れ込んでしまう傾向があるためです。そこで、“予防保全”ではなくて事前対策としてのメンテナンスが提唱されており、MATLABでも予知してメンテナンスするという手法を提唱しています(予知保全)。
航空機のエンジン等の予知保全の大きな事例が2件取り上げられ、非常に込み入った話でした。会場からも思わず実務的な質問が出たりしていました。アプリの使い方等ではなく、アルゴリズムや結果データを人がどう判断するかという問題が横たわっています。これに関して、実際の生データをそのまま判断するのではなくて、生データから主成分分析を行って可視化し、「マハラノビス距離(統計手法)」にかけて異常かどうかを判断、報告するという話などがありました。
上記のセミナーで紹介されたレジュメは、BMBの文書フォルダ「BMB第38回オフ会資料」からダウンロードしていただけます。
MATLABに関するご質問は marketing-jp@mathworks.co.jpまで直接お問い合わせください。
深層学習による官能評価を考慮した自動外観検査に関する研究
地方独立行政法人 大阪産業技術研究所 森之宮センター 北口勝久氏
外観検査という製造工程最後の砦の自動化はAIにおいても難題ですが、だからこそそれに取り組む価値は大きいのかもしれません。講演では深層学習を外観検査の自動化に適用する場合に問題となってくるいくつかのポイントについての研究結果の話を聞かせていただきました。
特に印象的だったのは「学習画像のサイズが識別精度に与える影響の調査研究」という、既存の知識を鵜呑みにしない姿勢で、そして何と言ってもブラックボックス解消の研究の話でした。
機械学習による耳介認証システムに関する研究
地方独立行政法人 大阪産業技術研究所 和泉センター 喜多俊輔氏
耳介伝達関数を用いた個人認証システムの提案ということで、指紋認証や静脈認証などの生体認証技術の代替または新規用途として期待される技術研究の話です。
研究結果では本人認証率98.5%という精度が示されていました(ちなみに実用化されている指紋認証や顔認証の精度は99.9%といったオーダー)。耳介に当てた音波の跳ね返りによる周波数特性の深層学習は難解で、キーワードは耳介伝達関数、DNN(ディープニューラルネットワーク)、SVM(サポートベクトルマシン)、HP(ハイパーパラメータ)、評価指標として混合行列などといった手法、指標を用いての発表でした。
実用化に向けて奮闘中との話ですが、実用化されればメリットは大きそうです。主なメリットは個人で持てるほどの低コスト、衛生的、認証が簡単等があります。登録にも使用にも必要なのは手持ちのスマートフォンだけという話です。