フライパン物語
リーダー人材の発掘の出発点は採用だが、それはもちろん終点ではない。リーダーの在職期間が長くなるほどそに人に関する情報が増え、ポテンシャル評価も正確になる。素質のない人を選んだり逸材を見逃したり、といったよくある失敗を防ぐには、人材プールを何度も見直し、才能が開花しなかった人材を外す、突然開花した人材を加えるといった可能性を残しておくことである。
素質の高いリーダーは、採用時やその後なるべく早い段階で発掘したい。ただし、アイビーリーグの名門大学でMBAを取得したからといって、リーダーとして能力が保証されているわけではない。優秀な卒業生は、頭の回転や飲み込みが早く、数字を器用に扱い、その他にもビジネスで役立つスキルをたくさん持っている。しかし、リーダーの才能がなければ、リーダー人材としてではなく、個人として貢献してもらうべきである、もちろん人材としては有望で採用する価値があるが、将来のCEOとして期待をかけるのは間違っている。
GEが求める「成長リーダー」の選択基準を具体的に示し、その基準に従ってあらゆる階層のリーダーが選抜されている。
【GEリーダーシップ選抜基準】
以上はどんなリーダーにも当てはまる一般的な基準であり、あとは各々の企業の都合に合わせて取捨選択した上で、自社のビジネスに即した資質、スキル、あるいは姿勢を加味していただきたい。そうすることで自社特有のリーダーシップニーズに応え、かつ競合優位を導く差別性のある選定基準になる。難しいのは、リーダーに求める資質を会社として定義することと、自社の中長期展望を見据え、常に基準を更新することである。
リーダーの素質を知る手がかりは、他にもいつかある。物事を大局的に捉える傾向と能力は、外部環境の変化がビジネスにどう影響するかを予測できるCEOを、あるいは会社全体の動きにマーケティングを連動させることのできるマーケティング責任者を見分ける目印である、必ずしも大企業で成功しているリーダーたちに共通する驚異的な思考の深さや幅を生まれながらにして持っているわけではないが、常に情報を求め、物事を広い視野で捉えようとする人にはその可能性が備わっている。若手リーダーでも同年代に比べ、細部にとらわれずに物事を大きな文脈で捉え、自身や目前の仕事を大きな枠組みの中に位置づける概念化能力を発揮する人もいる。
露天商であれ世界的な大企業のCEOであれ、成功するジビネスパーソンは、そのビジネスでどうやったら儲かるかというツボを必ず押さえている。
儲けの基本は、外部環境と突き合わせて会社の損益と貸借と管理することである、誤解がないように言っておくが、「損失と利益」は「損失または利益」よりもはるかに大きな概念である。会社の損益を管理するには、損失または、利益に影響する無数のファクターや情報を、そのほとんどが不完全か歪められているという事実を含めて考慮に入れ、そうした相対する事柄をつなぎ合わせ、持続的に儲けキャッシュを生み出すという明確な目的を持ってトレードオフを行うことが必要である。リーダーは、損益計算書と会社の健康状態を表す貸借対照表とがどう影響しあうかもわかっていなければならない。
リーダーシップのベースにあるのは、他者を動員してビジョン、目標、タスクを達成する能力である。リーダーが何でもできるわけではなく、人を管理してやらせる。人に任せると同時に、確実にそれを遂行させる術を駆使し、より多くのことを成し遂げる。人に期待感を持たせ、やるべきことを最高の人材にやらせ、破壊的、利己的行動によって全体の共通目的が邪魔されないように人間関係を監視するのである。
もしある人が的確な人選をし、選んだ部下達をやる気にさせ、チームとしてうまくまとめていたら、そしてチーム同士の連携や人間関係におけるトラブルの原因を突き止め、解決していたら、その人は人を見る眼を持ったリーダーである。
リーダーは見るだけで分るだろうか。リーダーとは何か、何をすべきなのかについて、ほとんどの企業が間違った認識を持っている。最初の人選に失敗すれば、いくら育成に力を入れても無駄である。
中略
人格は優れた政界やスポーツ界のリーダーが、必ずしもビジネスの才能を持ち合わせているわけではないからだ。
中略
ビジネスリーダーの素質とは、『人を見る眼』(周囲の人のエネルギーを活用する能力)と『ビジネス感覚』(そのビジネスにおける儲けの仕組みが分る能力)が、らせん状に絡み合ったようなものである。この2本の糸は、二十代になる頃にはたいてい伸び始めている。あとはその人のその力を試し、伸ばす機会を与えればよいのである。
熟達したリーダーの中には、このような意識的練習を当たり前にやってきて、飛躍的なコンセントリック・ラーニングを経験した人々がいる。
中略
チームを引っ張るために、ウェエルチは選手たちのことをよく知る必要を感じた。それは、彼らの生まれ持った才能を見抜くため、そして強化するためにフィードバックやアドバイスを与えるためである。ここを育成し、集団としてまとめる。そのコアスキルは、彼がキャリアを通じて繰りかえり練習して磨いたものだったのだ。
中略
彼はここで新たなコアスキルを身につけようとしていた。つまり、ビジネスの勘所を押さえる能力である。彼は、始めの頃に部下の評価を誤ったことを認めていて、ビジネスに関しても見誤ることが多かったという。しかし、常に能力向上に努め、部下やビジネスを見定めるという訓練を続けたおかげで、どちらに対する判断力も高まっていった。
徒弟制度モデルでは、「コンセントリック・ラーニング」が基本概念の一つになっている。有望なリーダーのキャリア形成を同心(コンセントリック)円にたとえてみる。外側にいくにつれ仕事の領域と難易度が増している。
一番内側の円は、最初のマネジメント職で身につけた基礎的な「コア能力」である。次の仕事がより広範でより困難な仕事でも、リーダー自身にその試練に見合う才能があれば、そのコア能力をうまく新しい状況に適応する。そして能力を拡大し、さらに広範で困難な仕事にも臨めるようになる。これが、私がコンセントリック・ラーニングと呼んでいる現象であり、徒弟制度モデルにおけるリーダーシップ開発が目指すところである。