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後継者・人材開発制度の究極の課題は、CEO職を選任することである。CEOが1グラム(g)の金だとすれば、それを生み出すのに1トン(t)の鉱石に匹敵するリーダーが必要だ。
中略
有力なリーダーを育成しようとしている企業は、プロジェクトや部署、ビジネスユニット、部門、事業部、リージョンを率いるリーダーとして活躍しそうな大勢の中から、CEOのポテンシャルを持った数名を慎重に選ばなければならない、そのためには、CEOになるには何が必要かを十分に知っておく必要がある。
採用プロセスも変わってくる。入社する若い人材にリーダー素質があるかどうか徹底的に調べるようになる。中間管理職や上級管理職の採用では、自分以外のリーダーを育成する能力があるかどうかを採用の絶対条件に含める必要がある。
このリーダー開発プロセスでは、ラインマネージャーやシニヤマネージャーが要になるが、だからといって人事部門の仕事が減るわけではない。それどころか人事部門は、徒弟制度モデルにおける「受託者:トラスティー」(財産の保管・管理人)である。企業が設備投資計画を立てるのと同じように、きちんと将来に備えてリーダー人材を確保し育てていけるかを見据えるのが人事部門である。人事の役割は、リーダーシップ開発プロセスが機能し、しっかりと成果を出すよう目を配り、リーダーやそれぞれの進路に関する議論に貢献することである。
徒弟制度モデルを導入し、実行するには、相応の覚悟が必要だ。なぜなら、ものの考え方や行動の仕方を組織全体にわたって変えていかねばならないからである。
リーダーの資質を持った人材は、実際に他の人とは明確に異なること、時間や注意のかけ方を人によって変えなければならないことをまず認める必要がある。しかし同時に、リーダーが人とは違うとはいえ、人間として優れているかどうかは別の問題だと肝に銘じていただきたい。
責任の重い仕事をどんどん与えているのに、リーダーがなかなか成長してくれないときには、その原因を突き止める必要がある。仕事が難しすぎたのか、それとも指導が不十分だったのか、本人が能力や判断力を磨く努力を怠ったのか。経験は、見識あるフィードバックが知的な内省かその両方を基に自分を変えることではじめて身になる。
中略
リーダーシップ開発に長けた組織では、どこでも上司がリーダーを注意深く観察し、フィードバックとコーチングを行っている。徒弟制度モデルでも、メンターの役割を担う上司が自分の仕事として、部下である若手リーダーの指導育成にあたる。彼らの視野を広め、自分が得た経験則や知恵を伝授し、それぞれの隠れた才能を見出す。上司とメンターが同じ一人の人のほうがよいのはそのためである。
「計画的徒弟訓練」を通してその人材の基本的育成を行う。入社から最高幹部の職位につくまで平均して5つの職務しか経験しない。これらの職務内容も、したがってその設計や選択もきわめて重要である。ビジネス判断や精神面、周囲の人にやるべきことをやらせる力、学び成長する力など、リーダー能力を多面的に試して伸ばす、つまりリーダーの教育という意味で、企業もリーダー本人も一つ一つの職務機会を最大限に生かす必要がある。
中略
キャリアマネジメントとは、むしろリーダー本人に切迫感をもって能力を伸ばさせるべきものである。有能なリーダー候補に与える仕事は、いずれも本人の力を十二分に発揮させ、その人材が生まれ持ったリーダー資質を伸ばすと同時に、新しいスキルや能力を習得し、かつ個性を磨くことができるかどうかを試すものでなければならない。
リーダー人材を早期に発見するということは、シニヤリーダーの仕事です。(シニヤリーダーがいなければ、社長の仕事です。)
早期発掘のポイントは、天性のリーダーシップ能力と、もう一つ、ビジネスセンスを持った人材を見つけることにある。鋭い観察眼を持った人なら見極めがつく。
新しいスキルを進んで身につけ、知識をどんどん吸収して人に伝え、長期的な人間関係を築き、人を動かして物事を成し遂げる。そうした能力や生まれ持った資質で頭角を現すのが有力な候補である。
そのような人材は、与えられた職務に必要な事柄だけでなく、自分の上司やそのまた上司の仕事に求められることをも学習してしまう。直接的にする人とそうでない人がいるが、一人残らず自分の枠を広げる。
有望な人材というのは、才能をフルに開花させる過程で自分の上司を順番に追い越していく。そのダイナミクスに早く気づくべきだ。
リーダー人材を早期に見つけ出すことは、きわめて重要である。
中略
有望な人材を育てるには経営資源を集中投下することになるため、見極めには正確さも要求される。ここでいう経営資源の中で最も貴重なのは、お金ではなく、他のリーダーたちの時間、労力、注意である。こうした資源は非常に不足気味であるため、注ぐ相手は、最高幹部として成功す見込みの最も高い人材でなければならない。
『CEOを育てる』より
徒弟制度モデルの導入企業では、リーダーが才能を発揮できるような仕事を慎重に選び、さらに新たな能力を発見・取得する力があるかどうかを調べる。そしてリーダーがスキルや判断力を継続して高められるように、リアルタイムでフィードバックを与える。
年に1回は成長具合をチェックし、その人なりのリーダーシップの形を追及するためには、次に何を学習させるべきかを見極める。最も有望と思われるリーダーたちには、リスクを承知で前職よりもはるかに困難な仕事を与え、いつかCEOへの躍進を遂げるために、必要な実務訓練をさせる。
「徒弟」とは、技能や工芸を習う門人のことだ。リーダーも訓練を通じてしか育たない。いかにリーダーの才がある人でも、実地で訓練を重ね、その経験を高度なスキルや判断力に転換させることで自分の能力を伸ばさなければならない。
流れとしては、はじめから筋のある人を選び、徐々に技術を身につけさせる。本や学校で学習することもあるかもしれないが、その見習工をいつの日か親方にしてくれるのは、熟練技術者について体得した技や精神に他ならない。ビジネスリーダーもまったく同じである。資質を持つ人をリーダーに育てるのは、圧倒的に、具体的な評価と自己補正を伴った「経験」である。
結果から見たとき、「運がよかっただけ」と考える人もいるだろう。それは、彼の素質が早い段階で見出されたからである。通りいっぺんの形式的な能力査定でなく、自分の仕事や人間性を深く知る一人のメンターによって多面的に評価された。正規の出世階段を一段ずつ地道に登るのではなく、他の幹部達を説得して大胆な昇進を可能にしてくれた上司がいた。どの仕事も十二分の力を要求され、持ち前の才能を伸ばし、重要な能力に磨きをかけ、更に新しい能力を身につけさせてくれた。個人的にフィードバックやコーチングを受けることができた。そして、彼の成長を我が功績を測る一つのモノサシとして――このケースでは自発的に――引き受けた経験豊かで使命感のあるリーダーがいた。
CEOになる素質を持った若者にとって利益となり、リーダーシップ開発に取り組む際に織り込まなければならないのは、まさにこうした要素である。