オイルテンパー線(機械的性質)

 弁ばねオイルテンパー線の語源は英語のOil Tempered WireあるいはOil Tempered Steel SpringWireに由来するものです。オイルテンパー線は冷間加工により所定の線径とした線を連続走行式の炉で焼入焼戻し処理をして諸規格の機械的性質を持たせた線で、ピアノ線、硬銅線と異なり、炭素鋼のみならず低合金鋼も使用できるところに特徴があります。また、全長にわたり特性が均一で、真直性が良いこと、降伏点 (0.2%耐力)および弾性限が高いこと、耐熱性、耐へたり性が優れており、6.Omm以上の線径の線についても高い強度の線が得られるといった特性があります。近年では焼入れの冷却媒体に語源の油だけでなく、水あるいは水溶性ポリマーを用いられることもありますが、得られる組織は基本的には同じなのでオイルテンパー線として扱って良いとされています。オイルテンパー線の引張試験による荷重一伸び線図をピアノ線、ステンレス鋼線と比較した例を下図に示す。オイルテンパー線は他の鋼線に比較して0.2%耐力および弾性限が大きい。
オイルテンパー線ー伸び線図

オイルテンパー線は多くがコイルばねとして用いられており、そのばねの用途に応じた複数種類のオイルテンパー線がっくられている。JISでは弁ばね用と一般ばね用に大別しており、その中に鋼種別のオイルテンパー線が定められている。この分類以外にも、懸架ばね用オイルテンパー線、プレス型ばね用オイルテンパー線といった特殊な用途に応じたオイルテンパー線の種類があります。これらの中でも弁ばね用オイルテンパー線は極めて厳しい品質保証が要求されるオイルテンパー線で、製鋼工程にて非金属介在物の組成制御を、製錬工程にてもきず・脱炭層を除去するための皮むき工程、さらにきず部の除去あるいはキズ部を明示するための渦流探傷工程が採用されています。一般ばね用オイルテンパー線には原則としてこのような工程は採用されず、懸架ばね用オイルテンパー線は太径の自動車サスペンション用のオイルテンパー線で、耐へたり性および腐食疲労特性を重視した非JIS鋼種の使用が多いのが特徴です。プレス型ばね用オイルテンパー線はJIS B5012に規格化されているプレス型用コイルばねに用いられるもので、丸線コイルばねには一般ばね用と同じ丸断面のオイルテンパー線が、偏平線コイルばねには台形もしくは長方形断面のオイルテンパー線が用いられる。プレス型用ばねは大きな荷重が必要なため、少ないスペースでできるだけ大きいばね荷重を得るために断面を非円形にしている。次に主なオイルテンパー線の機械的性質をピアノ線と比較した図を示します。
各種弁バネ用オイルテンパー線及びピアノ線の機械的性質