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陽気な黄色も毒を吐く―1
- 2009/11/16 20:00
- 投稿者: cfmedia カテゴリ:陽気な黄色も毒を吐く
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陽気な黄色も毒を吐く
1
突風が吹いて、古書店で働くことになった。
経緯はそれほど複雑でない。
突然飛んできた何かに顔を覆われ、片手で咄嗟にベンチにしがみついた。しがみついたところまでは良かったが、そのベンチというのが、最近流行のリクライニング式だったらしい。衝撃で背もたれがぱったりと水平に開き、商店街が九十度左回転するのを見た。慌てて駆けつけ、助け起こしてくれた人が、先程顔を覆ったものを見せてくれた。それが、古書店のアルバイト募集の大きな張り紙だったというわけだ。
ここまで話すと、常春(とこはる)さんは腹を抱えて笑い出した。
「リ、リクライニングと、ちゃうし、」
本棚の間に声が響く。もちろん、今ならそれくらいは分かっている。
「あの時はほんまにそう思ったんですよ。」
「マスター、笑いすぎだね。」
椎葉(しいは)さんがコーヒーの袋を奥に置いて出てきた。
問題のベンチは、近く撤去されることになっていて、椎葉さんが「危険、座るな」と書いた紙を貼り付けていたそうだ。しかし座る時にはそんなものはなかったから、きっと風で剥がれるかしてしまったのだろう。
あ、そうやシイさん、と、常春さんはたった今まで笑い崩れていた顔をきりりと引き締めた。
「こないだの話なんですけど、写真を持ってきましたんで、見てもらえませんか。」
何やら相談があるらしい。椎葉さんと目が合ったので、頷き返した。