ここから少しプロダクトデザインをするにあたっての造形の意味について考えていきたいと思います。
プロダクトデザインに限らず、形は人の生活にかかわるときに否応なく意味を持ってしまいます。
使いやすい形や使いにくい形が存在するのはそのひとつの表れかと。
意図をもって造形をコントロールすることがプロダクトデザインの醍醐味です。
その次にそれをどうやって美しく表現するかということになりますが、それは形の引き出しを自分の中にたくさん作ることだと思っています。形の引き出しからデザインテーマにふさわしい部品をピックアップして応用することが造形アイデアのプロセスです。
例えば、上のスケッチは球形の有名なアールニオの椅子とアイリスオーヤマのサーキュレーターです。
球形とは上下左右どちらに回転させてもシルエットが変わりません。従ってその特性を生かすテーマは「回転」となります。
また、球形は平面においたときに転がってしまい安定しません。そこでどのような足をつけて安定させるか、或いはカットさせて踏んていさせるかなどの条件クリアがデザインの良しあしを決定させます。だから面白いのかと思います。
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デザイナーの多くがが勘違いしていることに、リモコンのボタン数と使いやすさの関係があります。
UI向けのユーザビリティの本に下記のように書かれているのも見かけます。
・NET系のリモコンのボタンは数が少なく、見た目もシンプル。アイコン表示は直感的。画面の示す通りに進んだら誰でも操作しやすい。
・テレビ系のリモコンのボタン数は数が多く複雑。一般的に熟練したユーザーにはボタン数が多く階層が少ないために使いやすいとい。
今まで、私が何十回とユーザー評価をしてきた経験から言うと、これは典型的な一部デザイナーの思い込みです。
シンプルなボタンは、初めてのユーザーは手掛かりがないために最初から固まってしまいます。
何とか操作し始めても、階層が3以上増えるとその中で迷子になってしまいます。
特に、複数の目的で選択する矢印系のボタンはその典型です。
逆に、ボタンが多く日本語で名称が説明されているテレビ系リモコンは、ボタンの名前でやりたい操作を探すため、かなりの高齢者でも操作ができます。
つまり、ボタン数の多いリモコンほど、ITリテラシーの高い低いにかかわらず使いやすいといえます。
デザイナーとして、シンプルな美しいリモコンには憧れますが、事実は異なります。
今後超高齢社会に入るとともに、ボタン数の多いNET系リモコンも登場すると思います。
今の形はITリテラシーの高い人に特化したユーザー絞り込み戦略の段階かと。
ある意味で、右端の機能も絞り込んだ高齢者向け簡単リモコンのようなターゲット戦略の一つと言えるかもしれません。(この記事には画像があります。画像部分は外部ブログサイトで見れます。)
プロダクトデザインの基礎体力のうち、最も重要なものの一つがスケッチ力だと思っています。
テーマに沿ってコンセプトを考えるのと並行してその造形がどうあるべきかを把握するためです。
そしてそのスケッチには2種類あって、ひとつは形をつかむためのもの、もう一つがイメージを定着させるためのものです。
プロダクトデザインは極端に言うとデザインが何もしなくても形はできてしまう性質のものです。
ですから、まず作り手のメッセージを定着させるとともに、迷わず適切な3Dデータ化できる造形ストーリーを作らないと、なんだかわけのわからない形になってしまいます。
上の図は左が形を把握するためのもので、真ん中がキースケッチで、右が3Dレンダリングです。
スケッチをしながら造形のテーマを構築していくと、ディテイルも同じ造形ストーリーで作成できるので効率化にもなります。
そのためには、上手でなくてもいいですが、どんな造形テーマで形を構成するのかがわかる立体把握力と、自分でかっこいいなと自覚できるキースケッチを描く最低のスキルが必要になってくるわけです。(この記事には画像があります。画像部分は外部ブログサイトで見れます。)
モダンデザインは、「課題を解決するのに最もシンプルでバランスの取れた方法を美しいとしましょう」という価値観がベースです。
ですから、当然真四角なものや真ん丸な基本形が多くなります。
一方で、その基本形で果たして要件が満たされているかどうかが問われますが、使い勝手との両立を条件に入れると難しいです。
上の炊飯器は30年以上前のデザインですが、蓋の上に操作部を設けた最初のIH炊飯器です。
同じく同じ考えの炊飯器が他社からも発表されましたが、それが真四角の形で水平に操作部がレイアウトされていました。
使うときは斜めがボタンを押しやすく、遠くからでも炊飯ランプが見やすいようにすると、普通は大きくなってしまいます。
これは、斜めに操作をレイアウトしつつも、後方はカットしてコンパクト化も両立し、斬新で魅力的なデザインが実現できています。
言葉でいうと簡単ですが、そのために必要なのは造形力です。
条件を生かすために不細工なデザインになるのが普通なのですが、ここで頑張ると新しいデザインが創造できるのです。
シンプルなだけのデザインは、学生にもできます。
プロのデザインは、二律背反要件を解決する造形力が求められるのだと思います。
※この商品は様々なデザイン賞を受賞しただけでなく、登録意匠では初の全国発明協会の発明賞もいただきました。
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図記号についてのコメント二つ目です。
電気製品には時計機能が付いたものがあり、時刻表示のために多くの商品で表示しています。
左のアイコンがISO国際標準・JIS日本工業規格で定められた正式なものですが、あれれ?
真ん中や右のアイコン?も電気製品だけでなくアプリなどで見かけますね。
これは図記号の中でも時計の形に意味を持つピクトグラムに分類される部類のものです。
ピクトグラムは言葉の制約を超えて直感的にわかりやすくする機能を持っているものなので、伝われば良いともいえます。
でも、図記号として標準化したアイコンは、様々な形ではなく多くの製品に共通の形として統一して使っていく文字の役割を持っています。
その事を認識していれば、商品に創作したピクトを図記号かの如く表示するのはいかがなものかと感じてしまいます。
今はネットで楽に調べることが出来ます。
デザイナーは自分の発信する造形にはユーザーの立場と社会性を意識して表現していきたいと思います。(この記事には画像があります。画像部分は外部ブログサイトで見れます。)
皆さんは、こんなマークをよく見たことがあると思います。
左が電源スタンバイマーク、次が電源切、最後が電源入マークです。
えっ?左は見たことあるけどスタンバイって何?っていうのが私の周りの認識です。
最近はデザイン家電という分野の表示で「文字表示はダサい」という流行にのっとり、このような図記号=ピクトが増えています。
こういうジャンルももちろんアリなのですが、ピクトの使い方を間違えているのが多いので気になります。
もともと〇は回路が開いていることを、Iは閉じていることを意味した国際標準の記号です。
スタンバイとは、回路は動いているけど見た目は動いてないよという意味でつかわれるものです。
例えばテレビのリモコンの電源はこのマークが使われます。 すなわちテレビの画面を見るための信号を受信するには、リモコン受信回路は常にオンでなければならず、完全な電源切とは違いますから、これが使われます。
でも、皆さんミキサーとかトースターとかの電源マークにも使われているのです。
本来〇Iで示すところをポンコツデザイナーが良く調べもせず使っちゃったんでしょうね。
このあたりで、そのブランドが3流かどうかが見極められるのではないでしょうか。
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