ベジカップ
山納さんの「コモンカフェ」という本が発売になりました.東梅田の旭屋書店では、ビジネス書の所に平積みされていて、店員の手書き推薦文があった上に午前中に寄ったのにかなり減っていました.
山納さんは、現在は大阪21世紀協会ですが、以前の職場のメビック扇町時代に色々とお世話になりました.彼は、会社員の傍らコモンカフェという日替わりマスターのカフェを経営しています.
本の内容は、どこかで山納さんがおっしゃっていた事をわかりやすくまとめたもので、色々と断片的に伺っていたはなしがつながって理解できる内容です.彼の一貫した「場を作って、それを続ける」こと「文化的に豊かなスタイルの模索」の行動の軌跡が解ります.
なんといってもすごいのは、その色々と模索して現在に至っているコモンカフェのマニュアルや企画書、収支計画などの細かい資料も巻末に掲載されている事です.こういうものは、お店にとっては企業秘密にも当たる部分なのですが、それをあえて公開していることのスゴサを感じます.
京都府のベンチャーコンペのキックオフとして、デザイナーの奥山清行氏の講演会に行ってきました.
1時間半程でしたがかなり盛りだくさんの内容で、充実した講演会でした.内容の前半はフィロソフィの話で、後半はマセラティと山形でのケーススタディの話でした.
話していることは結構当たり前のことを述べられていましたが、現場での体験をベースに語られているのでリアリティが高く説得力がありました.また、その当たり前のことをつないで考えられているので、思考が理路整然としていて理解のしやすいプレゼンテーションでした.
最後におっしゃっていましたが、プレゼンテーションをするということは自分の思考をまとめることととらえていて、どうもパワーポイントも今回の発表に合わせて制作したように感じました.
思考からプレゼンテーションまで、基本に忠実な考え方とそれに情熱を持っていることを貫いているのが印象的でした.
奥山氏はイタリアでの活動も長く、中小の工房でのモノづくり、ファッションなどのブランドの考え方などに精通していて、その辺のノウハウを山形での地場産業の活性化に活かしているようでした.「デザインの作業の2/3はコミュニケーション」として、広い意味でのデザインを考えられているので、今後も彼と伝統工芸とのコラボレーションが注目されると思います.
知り合いで、一緒にNPOの理事をしていただいている広島大の千代さんが監修したコルビュジエ関連の展覧会が開催されています.
ギャルリータイセイ「ル・コルビュジエ:フィルミニの教会-光の軌跡-」展
森美術館ル・.コルビュジエ展
千代さんはコルビュジェを中心にした建築デザインの研究家で、特に2006年に完成したフィルミニの教会の展示は興味深そうです.かなり線の細い華奢な方なのですが、フランスやインド、アフリカなど各地を飛び歩いています.
どちらも夏頃まで開催されているので、私も機会をみて行ってみたいです.
奥出直人さんの「デザイン思考の道具箱」を読みました.
メーカーでの従来の「新商品」というと、既存のチャンネルに対して既存の商品に新しい機能や価値を加えたものを開発するというものが殆どでした.その場合の開発手法はどちらかというと技術オリエンテッドなものが多く、技術革新によって商品そのものの価値を大きく上げる事に注力されていました.
ただ状況は大きく変わり、テクノロジー自体のコモディティ化が進んだことで、技術を「どう使うか」という事が注目されています.確かに、以前の会社でロボットの開発をしていた技術者が、「たいていの事は技術的にはやろうと思えば出来る.だけど、それをどう組み合わせて良い商品(ここではロボット)にして良いか解らない.」と言っていた通り、イノベーションは技術そのものから、技術をどう社会化するかということに変わっています.
この本では、IDEOのデザイン手法とそれを発展させた経営手法をベースに、日本的な経営にフィットさせた手法として、デザインの手法をより進化させて、ビジネスの様々なプロセスでのイノベーションを加速させる事を説いています.デザインに関しては、単なるスタイリングや商品に新しい価値を加えるという事ではなく、イノベーションの手法とされています.
本の中でも何度もiPodのイノベーションに関して触れています通り、iPodやiTunesは技術的にはそれほど新しいものではありませんでしたが、それらを使って新しい生活の価値を提案することにより莫大な売り上げを上げています.最近の例ではiPhoneと国内の「デザインケータイ」を比べると解りやすいです.
そのような「イノベーション」を行う組織や人材の育成というと、そのようなスキルを教える教育機関は無いし、企業内でも個々人のタレントに期待するレベルでした.デザイナーは定性的な価値をどう高めるか、ということを日頃考えて活動をしていますので、そのようなスキルを一番持っている人種といえると思います.
ただ、この本の中でも一部危惧されていますが、デザインの現場を見て感じる問題点は、
・意思決定者がそのような新しい価値(つまり定性的な事がイノベーションであること)に対して理解できない.
通常ビジネスの現場では、マネージャーは定量的な指標でジャッジメントをするので、デザインや使い勝手などの基本的な定性的価値ですら、個人の好き嫌いや投資額のみで判断される場合が多くあります.
これは、iPod以降も単に機能だけまねた商品が日本メーカーから発売され続けている事でよく解ります.単にウォークマンの後追い商品の様な感覚で、機能や形状をまねる=iPodと同様な価値を提供できる、という勘違いを意思決定者がしている事に拠ります.
・デザイナー自身のタテワリ意識で自身の価値をビジネスのイノベーションに発展できない
特にインハウスに多いと思いますが、コンセプトをスタイリングに落とし込む事には力を発揮しますが、総合的な商品価値を上げる為のより広い領域への参画にしり込みするケースが多いように思います.これは、個人の資質の問題よりも、教育機関や企業内でのOJTのあり方が(当然ながら)古いままであることが問題なのだと思います.
ただ、IDEOなどのデザインの手法をアカデミックに分析して商品開発に結びつける企業が増える中、デザイナーのあり方というものは本当に変わっていかないといけないのだと、この本を読みながら強く危機感を持ちました.
とにかく、芸術系の大学でデザインを教える時代は終わったのかもしれません.
けんちくの手帖へ.駒井貞治さんの「借家生活」というテーマでした.
「建築をデザインする」ことに辟易した駒井さんが、借家を構造に触れないレベルで改造し、その部材を持って次の家へ引っ越すというプロジェクトを中心に建築というものを捉え直したお話で、非常に面白いものでした.
その場にある借家を自分に合わせる為に、身近なもので作り上げる手法を見ていて、ブリコラージュの手法だと感じました.イベント後雑談していると、元々建築はブリコラージュ的なものだったとの指摘がありましたが、現代の「キッチリ設計する」建築に比べるとかなりブリコラージュ的といえると思います.
プロダクトデザインでは、エンジニアリングの思考で構築され「寄せ集めて自分で作る:器用仕事」的な事を排除した事で成立していきました.しかしながらブリコラージュ的な考え方は、エコデザインの観点から「その場での生産と消費」する為の手法として有効だと思います(seccoなど)し、オルタネイティブで小規模なデザイナーメーカーの活動は、そういう傾向があると言って良いと思います.
そういう意味で、建築の世界ではこのような感覚が認知されつつあるのかもしれませんが、プロダクトデザインの分野では殆ど誰も知らない考え方なので、もっと掘り下げてみる必要はあるでしょうね.
某書店より入荷の知らせがあったので、ロボットデザイン概論を取りにいきました.
ざっと読みましたが、かなり良い本です.
内容は、ロボットのデザインという以前にデザインやデザインのプロセスそのものを丁寧に解説してあり、その上でロボットのデザインを論じてあります.著者の園山さんは、エンジニアやデザインの勉強を始めた人に読んで欲しい、と言われていましたがまさに教科書的な内容です.
デザイン(特にプロダクトデザインの分野)のプロセスというものは我々デザイナーは何気なく行っていますが、実際にはそれほど体系立ったものもなく、書籍も少ない分野です.この本はかなりその部分も細かく解説してあり、実践的な内容です.
また、何よりロボットのデザインを、単なるスタイリングや象徴的な意味ではなく、人間との関係性の中で形成されるより広い意味のあるものである、というメッセージを非常に解りやすく説かれています.だからこそ、ロボットのデザインは、美大を出た人間だけではなくエンジニアなどの総合的な知識を持った集団の個々にその必要性があるということがよく解ります.
とりあえず、書店から某美大の授業に向かいましたが、冒頭1年生に対してこの本を勧めて、ついでにロボットのデザインの面白さを伝えました.若いデザイナーがロボットのデザインに具体的な興味を持ってもらえれば、この本の意義があるといえるのでしょう.