第五話。「文創りのエチュード」〜貼箱×放送作家〜

  • 投稿者:  
  • 表示回数 1,925
8月31日から始まったコラボ企画「貼箱 × 放送作家」シリーズの第五話。

舞台脚本、テレビの構成台本、小説など、幅広く活動されている松尾成美さんが主宰する文章教室の生徒さんに、「貼箱」をネタに「エッセイ」または「フィク ション」を書いていただき、弊社サイト上に掲載するという企画です。

1日1話づつ、7人の方による計7話の連続掲載を致します。
文章教室【奈良の学園前 アートサロン空】の生徒の皆さんの力作を、どうぞご堪能ください。

宜しくお願い致します。



hagaki-06.jpg
※使用箱:葉書入れ(詳細は、こちらをご覧ください。)

<フィクション>

秘密の小箱

児玉 美津江

”1954年12月27日・姉の東京よりのおみやげ ”
古びた日記帳を取りだし、私は「はっ」とした。今日までこの日記帳は、父からのおみやげだとばかり思い込んでいたのである。
あの頃、私は中学1年生だった。終戦後、ようやく世の中も、明るさを取り戻しつつあるように思えた。
父の出張に、姉がついて行くことになり、確か、私は脹れていた事を思い出した。でも今になって考えてみると、6つ違いの姉は、女学校を出て、ずっと家事 の手伝いばかりしていたのだから、きっと父が不憫に思い連れて行ったのではないだろうか……。
「はい、おみやげ」姉が、ちょっとご機嫌を伺うように差し出した。
それは、とても綺麗な箱だった。「ワーァ素敵」私は、脹れていた事などすっかり忘れて、その箱に見入った。
箱は、茜色の空に白い雲がたなびいているようなとても綺麗な、葉書大の小箱だった。片開きの箱をそっと開けてみた。中には、赤いビロードの表紙の、日記 帳が入っていた。
私は、もうすっかり気に入り、その箱を開けたり閉めたり撫でたりした。
その日の夜ふけ、何時も聞く詩の朗読のラジオ番組に耳を傾けながら”或る晴れた冬空のもとで ”とビロードの日記帳の裏表紙の内側に書き込んだ。
中学になった私は“夢見る乙女”となり、一人前に恋をした。勿論悲しき片想いである。
そして、その日から日記をつけ始めた。片想いの彼は、当時流行った少女漫画に出てくるような美男子だった。私は彼を、『すずらん様』と呼ぶようにした。 日記には毎日のように『すずらん様』が登場した。
日記を書き終えると、そっとあの綺麗な小箱に終う。秘密の小箱に……。
ところが或る日「その後、すずらん様とは上手くいってる?」と二つ違いの兄が、ニヤリと笑いながらからかうように私に聞いた。私は顔から火が出るように 真っ赤になった。あのだいじな“秘密の小箱”を、いたずら兄貴に見られてしまったのだ。

あれから半世紀の時が過ぎ、小箱は少し色褪せたが、楽しかった我が家の想い出、そして初恋の切ない想い出がぎっしりと詰まっている。
そっと小箱を開けてみると、詩の朗読の時に流れる甘くせつないメロディーに乗って、ボードレールの詩の一節が聞えてきた。「私のことは想い出さないで下 さい……」
赤いビロードの日記帳の表紙を捲ると、そこには初恋の想い膨らむ頃に記した?微笑?という文字が目に飛び込んできた。

★感性品質への「こだわり」オリジナルパッケージ(貼箱)企画・製造★

村上紙器工業所

手間をかけることは、「愛情」をかけること。
「愛情」をかけることが、私たちの仕事です。

感性品質とは、性能や効率だけではなく、「心地よい」「官能的」
「温もりがある」など、デザインや素材感を活かし、
人の”感性”に直接響く「魅力的品質」をいいます。

そんな”ゾクゾクするほどの美しさ”や”ワクワク感”のある貼箱を、
私たちはは作っていきたいと考えています。
そして、あなたの”名脇役”になりたい……。