2月5日の数字:強気の値上げ、約3割

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セオリー通りにやれば、本当にヒット商品を開発できる。
教科書のような成功事例があります。

マーケティングのお手本のような成功事例がある。キングジムの電子メモ帳『ポメラ』だ。2008年の「発売後は初年度で当初計画比3倍の9万個を販売(日経MJ新聞2010年2月3日付3面)」、ニッチジャンルでの画期的ヒット商品となった。

ポメラは、売れるべくして売れたといってもいい。なぜなら極めて精緻にSTPを組み立てているからだ。

まずセグメンテーション。文具マーケットの中でもメモに絞り込んだ。それも電子メモである。といえば「なるほど!」とピンと来る方もいらっしゃるかもしれない。そう、昨今の仕事術&勉強/手帳&メモブームにぴったりフィットしているのだ。

次がターゲティング。メモ帳ブームは幅広い層を対象としたものだが、ポメラが狙っているのは『メモオタク』である。手書きでは追いつかないぐらいの量のメモを、素早く取りたい。そんなニーズを抱えている「もともと文章を書く機会の多い一部の顧客向けの商品(前掲紙)」なのだ。この絞り込みが功を奏す。

だからポジショニングも鮮明になる。同じようにメモを書ける競合ネットブックとの差別化をきっちり図っているのだ。その結果ネット接続を思い切りよく諦めた。このポジショニングの妙。ここで「今どき、ネットにつながらないなんて」という常識にあえて反することで、際だったポジショニングを取ることができたのだ。

これがメモオタクの心をくすぐった。そして絶妙なプライシングの実現にもつながった。最初に出た『ポメラDM-10』は2万7000円ぐらいである。ネットブックの半分ぐらいだ。これに飛びついた人たちが、どれぐらいいたか。同社予想の3倍ぐらいだったわけだ。

そして去年の暮れに上位機種が発売された。旧モデルで不満の出ていた文字入力数を大幅に増やし、データ移行をより簡単にできるよう改善されたモデルである。これの値付けが、旧型機の3割増しである。

このプライス戦略をどう見るかは意見の分かれるところかもしれない。しかし『ポメラ』には絶対的な強みがある。競合が存在しないのだ。完全なる独占市場、そしてそもそもヒットするといっても何百万台もの販売を考えているわけではない。

だから、あえて適正利益(=ターゲットが納得してくれる価値に見合った対価)を削る必要はないと判断したのだろう。製品開発には、まずSTPを考えること。『ポメラ』の成功事例は、その重要性を再確認させてくれるモデルケースだ。