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か行のコラム 第1話 いかがでシュー。
- 2020/10/03 14:00
- 投稿者: nakajimaK
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か行のコラム 第1話
いかがでシュー。
いまから30年ぐらい前、私はある百貨店の販売促進部宣伝課で新聞広告や折込広告、ポスター制作、ラジオCMなどの仕事をしていました。その店は駅前にあり好立地の店ではありましたが、「交通の便がいいから」という理由だけでご利用いただいているのなら少し悲しい。そんな気持ちでいました。働いている者としては、品揃えや接客、取り組みなど、自分たちが関わる何かに魅力を感じていただいてご来店いただきたい。常々そう思っていました。
今も昔もデパ地下には洋菓子ブランドのショップがたくさん入っていて、その多くがシュークリームを扱っています。私が勤めていた百貨店もそうでした。そんな定番商品であるシュークリームは見栄えや食感などに違いはあるものの、ケーキほど顕著ではありません。だから、これを特集すると、逆にその微差に自然と目が行きます。クリスマスケーキを特集したり、バレンタインのチョコレートを特集したりするのはよくあるし、雑誌でシュークリーム特集をしたというのもあったかも知れませんが、百貨店が自分たちで発行する媒体においてシュークリームというワンアイテムで特集するのはあまり見たことがないのでは、とも思いました。
これは、ブランドという枠組みを外して、シュークリームというくくりでまとめ直すことで、路面の個店ではなく百貨店に行く意味、百貨店で買う意味が出てくるのでは、という仮説と検証です。広告のキャッチフレーズは、「いかがでシュー。」でした。
シュークリームは、通常は各ショップで他のたくさんのお菓子と共に並んでいます。そのため、とりわけ強調しない限り埋もれてしまいます。でも、広告ならそれだけをピックアップすることができます。売場とは違う形で、お客様の目の前に10種類以上のシュークリームをお見せすることが可能というわけです。ただし、見た目はあまり差が無い。だから、素材や製法、食感、ブランドの背景など、それぞれの特徴を言葉でお伝えする必要があります。そのため、売場担当者にお願いして、撮影後は試食させてもらえるようにしました。さすがに10種以上食べるのは大変でしたが……。
そんな仕事をしていた宣伝課を“卒業”して18年以上経ちました。独立してからは小売業だけでなく、サービス業や製造業や運輸業、医療サービスなど、さまざまな業種の広告や企画に携わらせていただいていますが、それらの仕事の中でもこのシュークリーム特集のように「一旦枠を外して新たな視点で再編集していくことにより新しい価値を見出す」ということを行ってきました。百貨店在籍時は<リフレーミング>という言葉も知りませんでしたが、振り返ってみると、そういうことだったんだ、といま思います。
改めて手法という観点から先述の取り組みを眺めてみました。ポイントは3つあると考えます。
一つ目は、「固定観念を脇へ置く」ということ。企画者が固定観念に縛られていると、枠は外せません。シュークリーム・ワンアイテムでの特集にOKを出してもらえたお蔭で企画を実現することができました。
二つ目は、「再編集の視点がユニークである」ということ。洋菓子を例にとれば、その切り口が「アイテム」なのか「素材」なのか「食感」なのか、はたまた「製法」なのか「サイズ」なのか「形状」なのか。お客様の興味を引く切り口でないと意味がありません。
三つ目は「共感を生む表現である」ということ。企画としておもしろくても企画書でお客様にプレゼンテーションするわけではありません。広告や売場でのPOPやカード、商品陳列、装飾などでお客様に共感していただけるものとしてお見せできないと、効果は半減してしまいます。
手法から入ると、突き抜けるような企画は出てこないような気もしますが、アイデア出しで行き詰ったときなどは、こういった手法を利用するのもありかな、とも思っています。
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