つつした
第25回BMBインタビュー(双葉塗装株式会社)
- 2018/08/17 16:00
- 投稿者: kawamoto(oidc)
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大手メーカーの産業機械などの塗装を手がける双葉塗装株式会社。代表取締役の深江裕宗さんに、会社の成り立ちをお伺いするとともに、2016年から取り組み始めたBtoCの生活雑貨ブランド「PA」にかける想い、事業パートナーであるプロダクトデザイナーの湯浅氏(MOTON)との商品開発における妄想のキャッチボールなどをお聞きしました。
双葉塗装株式会社は今年で創業67年を迎え、私で2代目となります。
事業は親父が18歳の時に独立して始めました。最初は旋盤やフライス盤などの中古品の傷をパテ埋めして塗り替えの仕事を行っていましたが需要が安定せず、焼付け塗装を始めるようになりますした。乾燥炉は鉄工所で作ってもらい、中に練炭を入れて焼くのですが、焼成温度や時間などは見よう見まねで、全て独学で学んだと聞いています。
4、50年前になりますが、その頃は産業用自動機械や硬貨計算機などの焼付け塗装を行っていました。35年前、私が20歳のときに勤めていた鉄工所をやめ、後を継ぐために戻ってきました。その後、社長を受け継いでから13年になります。
先代が丁稚奉公の頃から習得した塗装やパテ埋めの技術は今も当社の強みとして活かされています。例えば、100キロを超す重量物の鋳物の表面に塗装する場合は自然乾燥が普通なのですが、時間とともに塗料の剥がれや錆が発生してきます。そのため、より丈夫な焼付け塗装を施すわけですが、鋳物には内部に「巣」と呼ばれる空洞がよくあります。塗装をして巣穴が塞がれ、そこに熱が加わると内部の空気が膨張して塗膜が破ける「花が咲く」という現象が起こります。
当社ではこれを防ぐため、鋳物の巣穴を埋めるパテ塗りという作業を追加しています。下処理→脱脂→パテ塗り→研ぎ→中塗り→焼成→研ぎ→化粧→上塗りという、より手間のかかる複雑な行程を経て完成させます。
工作機械や装置などは昔から仕様が変わっていないものが多く、カタログ品(定番商品)は昔のままです。長年の信頼関係で築いた取引先とは60年の付き合いになります。しかし困るのは、得意先からは図面も仕様書もない発注が来ることが普通で、記憶を頼りに仕事するしかありません。昔はよく失敗して親父に怒られていました。
当社のキャッチフレーズは、「パテと塗装で預かった商品をべっぴんさんにしてお返しします」です。先代から学んだやり方を今は工場長が若い職人に伝えています。言われたことをただやるだけでは仕事は憶えられません。お客さんの想いをカタチにする塗装行程とは何か、常に自分の頭で考え、記憶を辿ることでイメージどおり塗れているかどうかの感覚がやがて身に付いてきます。豊かな想像力が必要な職業です。
高度経済成長に乗って仕事は順調でした。取引先が良かったのかバブル崩壊後も売上は伸び続けました。しかし、2008年のリーマンショックで経営者となって初めての赤字を出しました。2009年の2月までは最高益を更新していましたが、残りの半年で6割のダウンです。しかたなく社員には塗装の自主練習をさせていましたが、一週間に半日も仕事がなかったのです。その時気づいたのは、今まで仕事ばかりで外に出た事がなかったということです。そこで、経営やマーケティングの勉強をするために出かけました。
とある講座を受講した時の事です。最初は遠慮がちに一番後ろの席で聞いていたのですが、講師の言っていることがさっぱり分からず、最終日の3回目に、思い切って一番前に座りました。それでもよく分かりませんでしたが、最後に講師の先生が「皆さん分かりましたか?」と聞かれたので、私が「何も分かりません!」と答えると、先生が「深江さん、個別指導してあげるから後から別室においで」と言われて、それから大阪市や大阪府の支援機関などを紹介していただきました。その頃に「なにわマーケティング大学」にもお世話になりました。
色々な講座を受講しましたが、そこに来る人の顔ぶれが似通っていて、親しくなるにつれて人の縁や気遣い、やさしさ、心地よさなどに気づかされるとともに様々な助言をいただき、自社の強みもはっきりと認識することができるようになりました。
今、学んだ事は会社経営に活かされています。昔は損得勘定や好き嫌いで見ていたことも多かったのですが、自分の軸を「周りが喜ぶか喜ばないか」にすると決めました。それからは、家族や会社(社員)、地域が良くなると自分事のように嬉しく思えるようになりました。自分が変わることで、人を育てられるようになったのです。
私が社長になった頃から自社商品(BtoC)が欲しいとずっと思い続けていましたが、それが進んだきっかけがあります。約5年前に当社のホームページを見てデザイナーの湯浅さんという方が塗装の仕事を依頼してきました。その仕事は単発で終わったのですが、その後もデザイン支援機関を通じて様々なデザイナーとの出会いを重ねるようになり、2014年のDIMO(大阪デザインイノベーション創出コンペティション)に手を挙げました。結局、望んでいたマッチングはできなかったのですが、その情報を湯浅さんが聞きつけて連絡して来てくれました。「社長、本気で商品を作りたいんですか?」と聞かれるので、「当たり前やないか!」と答えたところ、「じゃあボクが手伝いますよ」と言われて、それから付き合いが始まりました。
私の中ではなぜか顧客のイメージが先にできていました。35〜38歳の夫婦で子どもは2人。一軒家で犬を飼っていて、アウトドアが大好きで、普段からおいしい料理を自ら作って皆で楽しんで食べるような。そんな女性が振り向いてくれる商品とは何だろうと想像が広がって…「根が妄想好きなんです(笑)」
それから、湯浅さんとは定期的に話をしました。一年間ぐらい色々なアイデア(妄想)を一緒に考えましたが、最終的に第一弾は“カトラリー”でいこうとなりました。2016年5月に立ち上げた生活雑貨のブランド“PA(PRIMP ATTRACTIVE=魅力的に着飾る)”の始まりです。既製品のスプーンやフォークに金や銀のメタリック塗装(グラデーション)を施しています。ステンレスの上に塗る当社の技術が応用された商品です。
次に考えたのが“PA Bottle”というガラス容器です。湯浅さんから「ガラスに塗って欲しい」と言われた時は「でたー!」と思いましたね。「ややこしいこと言うてくるな〜(笑)」と。ガラスは塗料がのりにくいので下地処理が必要ですし、蓋の部分に均質に塗ることやマスキングも手間がかかります。最初は頭をかかえましたが、難しいことに挑戦するという意欲が湧き上がってきました。ザラザラした質感を出すために樹脂の骨材を混ぜ、サテン塗装を施しています。力を入れなくてもボトルのふたが開けやすいというユニバーサルデザインでもあります。
日常の何気ないモノに焦点を当て、少し手を加えるだけで全くの別物に生まれ変わらせるのが湯浅さんの持ち味です。我々の塗装技術とモノの持つ可能性を探り、パズルのように組み合わせる。それがつながった瞬間、ワクワクするようなものに変化するのです。出来たモノを見ると触りたくなりますし、触ると驚きを憶えます。何度もその現場に立ち会っていますが、その手法は感動的ですらありますね!
湯浅さんは売るところまで面倒を見てくれるプロデュース型のデザイナーです。お互いの手の内を見せ合って信頼関係を築くことができてていますから、事業を続けることに不安はないですね。今も年2回、東京の「TABLOID」で開かれる展示会「EXTRA PREVIEW」にPAブランドを出展し販促を続けています。
将来は我が社でも営業職を入れて直接売っていけたらと思います。先日、代官山の蔦屋書店でPAの販促イベントを行ったのですが、1日目はほとんど売れず、諦めかけていたら2日目の午後に領事館らしき海外の人が来て5、6セットをまとめ買いされました。彼らはただの「ビン」や「箱」だとは思っていなくて芸術品という感覚で見ているのです。売る場所や売る相手が違うとこうも受け取る感覚が違うのかという思いを新たにして、営業が少し面白くなってきたところです。
今PAシリーズの塗装は工場長が一手に担っています。熟練工しかできない難しい塗装技術が必要なためですが、今までの産業塗装という仕事の延長線上でありながら、BtoC分野で新しい価値を生み出せたことは我々の自信になりますし、若手職人の励みにもなっていると思います。
塗装は、塗料の調合や粘度調整、吐出量やエアの調節といった技術的な要素に加えて、手と目と肌の感覚、いわゆる勘を養う必要があるのですが、熟練には10年はかかります。それに加えて、自社商品を扱うようになってから、好奇心や遊びゴコロも大事ということに気づかせてくれました。失敗を恐れずに、試行錯誤を繰り返しながら取り組んでみると、思わぬ発見があるものです。
最近、「思ったら実現するんだ」ということをしみじみと感じています。私もブランドが欲しいと思い続けていましたが、それを人に言うと50%、計画を文字にすると75%、熱意を持って動き出すと100%実現します!
私の目下の夢は10年後にモノづくりの寺子屋を始めることです。芸大を卒業してもデザイナーになれなかった子たちに接することがあったのですが、彼ら彼女らの夢を叶えるために応援できる場を作りたいというのがきっかけです。皆さんも夢は想い続けてくださいね!
(BMB事務局:川本)
大阪府産業デザインセンターでは、2018大阪府デザイン・オープン・カレッジワークショップ「日常に転がる“ヒント”から豊かさを創造する」をMOTONの湯浅さんを講師に迎えて開催します。(10/19・26)豊かな生活のための「ヒント」のみつけ方とモノに落とし込む「コツ」を学んでみませんか!