9月2日の数字:大切なのは従業員51.6%

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株主よりも、従業員を大切にする。
そんな新任役員が、上場企業の間で増えている。
ほんの数年前との逆転現象から、何が読み取れるだろうか。

今年1月から6月に選任された上場企業の取締役と執行役員に対して行われた調査の結果である。従業員の利益を最重視すると答えた新任役員が51.6%、「逆に(最重視するのが)株主は19.0%と2割を切り、調査を始めた98年以来最低の水準となった。05年には現在の2倍にあたる37.4%が株主重視と答えていた(日経MJ新聞2009年8月31日付4面)」

これはなかなか興味深い調査結果ではないか。あくまでも新任役員に限っての話ではあるが、逆になぜ新任役員が株主ではなく従業員を重視するのか。経年でみると明らかな変化がある。

従業員を最重視すると答えた役員は「05年には約3割だったが、09年には半数を突破した(前掲紙)」とある。つまり05年から09年で新任役員が最重視するのは、株主から従業員へと方向転換した。その背景には何があるのだろうか。

株主重視の姿勢が下がったことについてはおそらく、短期的な経営成績「だけ」を求められがちなプレッシャーへの嫌気が、その背景にあるのだろう。しかし、経営者がそれを言うならともかく、新任役員がそんなことを言っていて良いのかという疑念が残るのも確かだ。

もちろん従業員は大切にすべきだ。その点について異論はまったくない。が、従業員と株主のどちらを大切にするかと問われて、従業員だと答える役員を、自分が株主だったら「その意気や良し」と手放しで褒め称えることはできないだろう。株主とは本来、投資家であるのだから。

まず投資家が資本を出し、その資本によってビジネスはスタートし回っていく。ましてや上場企業であれば、この論理が透徹されなければならないはずだ。仮にビジネスを回していくためには効率化が避けられず、そのために従業員削減を図らなければならないとなったとき、この新任役員たちはどんな判断を下すのだろうか。ちょうど今の日航が陥っているケースのように。

まさかとは思うが、この記事を読んでつい最近、ある教育系の大学教授から聴いた話を思い出した。今の大学生は、自分とルールを共有する仲間に対してとても優しいのだという。しかし、その優しさは決して本質的なものではなく、まず自分が自分に対して優しいことを認めてもらうために、同じルール内にいる他者に対しても優しく振る舞うらしい。

そんなやわな新任役員が、日本を代表する(もはや代表してはいないのか)上場企業に増えているのではないことを祈りたい。極端な話、株主に背を向け、従業員に優しい顔をすることで、自分に優しくする免罪符を手に入れる。上場企業の役員がそれでは、日本はますます地盤沈下するばかりだ。