8月15日の数字:432

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432と聞いて「あぁ、あのクルマね」とおっしゃる方が、今どきどれぐらいいらっしゃるのだろうか。おそらくは年齢にして50歳以上の方か、それより若い方ならよほどのカーマニアだと拝察する。

あるいはさらに突っ込んで『432』の意味を正確に語れる人となると、さらにその数は絞られてくるのではないだろうか。が、昭和45年頃に10歳だった男の子にとっては、衝撃的にかっこいいクルマがこれだった。

昭和45年といえば、まだ日本のモータリゼーション前夜だったはず。家庭に一台レベルではなく、クルマを持っている家の方が少数派だった時代だ。うちの父親(昭和6年生まれ)が免許を取ったのがその頃で、いよいようちにもクルマが来ると思うとうれしくて仕方がなかった。

その頃の最高の楽しみが、親父と一緒に自動車屋さんをまわっては、クルマのカタログを集めること。最初はクルマをまだ持っていないから、近くのホンダショップだった。バイク屋さんに毛の生えたような店でホンダタウンを買い、それから休みの日にはクルマ屋さん巡りが始まったのだ。

当時はカタログがまだ貴重品扱いされていた時代である。小学生のガキが「カタログちょうだい」というと、時にいやな顔をされることもあった。こちらが乗り付けるクルマが軽自動車であり、身なりから類推するにどう考えても『432』など買えるはずもないと判断されたのだろう、あこがれの『Z432』のカタログだけはどうしても手に入れることができなかったのだ。

そう『432』とは、正式名称フェアレディZ432のこと。未だに、これを越える流麗なデザインのクルマはないのではないか。そしてフェレディ(=Fairlady)などと優しげなネーミングでありながら、そのエンジンは凶暴なまでの性能を秘めていたのだ。

そのスペックを象徴するのが『432』、すなわち4バルブ・3キャブレター・2カムシャフトである。いわゆるツインカムエンジン、別の言い方をすればダブルオーバーヘッドカムシャフト(DOHC)である。そのメカニズムが実際にどうすごいのかが小学生に理解できたはずもなかったが、一種のカッチョイイ暗号として『432』は機能した。

クルマにそうした夢を求めることのできる時代が、かつては確かにあったのだ。それがどうした? といわれれば、それだけのことです、と答えるしかないのだけれど。