IKUTA KABAN フラップバッグ
■■自分が本当にやりたいこと ■■ 2009年1月号(2008年12月25日発行)
野球のイチローや将棋の羽生名人は、小さいころから自分の進む道を定め、その道を邁進しています。そういう人たちは自伝などで、進むべき道を決めて、その実現のために絶え間ない努力をすれば必ず成功しますというようなことを言います。しかし、小学生のうちに、自分の進むべき道は野球、あるいは将棋と何の疑いもなく決められるこの人たちは、紛れもなくその道の天才なのです。一般の人間は、そんなに明確に自分の本当にやりたいことを見つけることはできません。20歳過ぎに社会に出て、なぜその仕事をするようになったかよくはわからないけれど、色々やっているうちに、楽しい仕事もつまらない仕事もあり、30歳台も後半になってくると、何となくこんなところかなあ、やりたいのは…と漠然と見えてくる、そんなところです。
当社の米国人エンジニアが、採用面接でいつも「どんな仕事でもすることが可能だとしたら、何をやりたいですか?」と聞いています。なぜそんなことを聞くのかと尋ねたところ、その人間の適性が回答からわかるからなのだそうです。例えば、女優と答える人には、周囲に自分をプレゼンしようとする社会性があるとか、宇宙飛行士と答える人にはあくなき夢を追求する冒険心があるといった具合だそうです。私もその面接の場に何度か立ち会いましたが、誰もその時の募集職種、つまり「営業」や「ITエンジニア」を理想の仕事には挙げません。そういう意味では、当社に入社した人は皆、自分の本当にしたいことからは妥協をして就職している訳です。では当社の社員は、麻生首相流に言うと皆、人生を誤魔化している人間ということになるのでしょうか?
そんなことは決してありません。皆、ちゃんと人生を真っ直ぐに見据えて生きています。先程の採用面接の質問ですが、私はこの質問に対する回答は、実はその人間の適性ではなくて、むしろ不適性を表わしているのではないかと考えています。本当は憧れているが、自分に適性が無いことがよくわかっているのでどうにもならない職業、つまり無いものねだりがここに表現されているのではないでしょうか。例えば、私ならこの仕事に対して「勝負師」と答えるでしょう。あるいは、「ギャンブラー」でもいいかもしれません。私は本来、強い者が勝つ世界、そして勝ったものがすべての世界、すなわち強さだけを求めてひたすら努力をしていればよい世界、あとは性格も、人情も、人の心も組織も関係のない世界、そういうものに強く憧れるのです。しかし、私には残念ながら、勝負事に関して他人より秀でた種目も無ければ、勝負を最後まで勝ちきる辛さも、勝つためにすべてを犠牲にし、努力を惜しまない過激さもありません。一言で言えば、やはり向いていないのです。
ですから、人の心とか組織という曖昧なところで生きています。こちらの方がはるかに向いているし、やりやすいのです。向いてないけれどやりたいことと、向いていることと、どちらが本当にやりたいことかと聞かれれば、私にはどちらかわかりません。ただ、向いていないと決め付けてやめてしまう前に、憧れている事と向いていることが違うということをもう一度よく念頭に入れて、本当に向いていないかを再検証するというプロセスが、天才のような大きな成功には届かないまでも、凡人並の小さな成功のためには必要なことなのかもしれません。
代表執行役 CEO 奥野 政樹