「開業率を高める」施策について思うこと

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あるところで、まだ予算編成前なので(不確定情報である)としながら、国の来年度の創業支援の施策案を聞く機会があった。施策の内容については、不確定ということで触れないでおくが・・

そこで示された(よく見かける)統計資料によると、

日本 開業率  4.5% 廃業率  4.1%
米国 開業率  9.3% 廃業率 10.3%
英国 開業率 10.2% 廃業率 12.9%

そして、国の方針では、日本は「米国・英国の開業率の水準を目指す」のだという。
あれれれれ???
 

確かに、日本の開業率の数値は他国の約半分と低いけれど、開業率>廃業率であるのは日本だけ。長いこと、廃業率が開業率より高いという認識だったけどいつの間にか逆転してるではないか(一時的かも知れないけれど・・)。これって企業数はわずかながらも増加してるってことなのか?
また、英国が開業率・廃業率とも米国より高く、しかも廃業率が日本の3倍というのも意外。

そもそも私は、「率」でデータを判断するのは危険だと思っている。
「開業率」というのは、全企業数に対する一年間に開業したが事業所の数の比率だから、分母となる全企業数が多いと当然低くでる。企業数規模が大きく、企業の寿命が長ければ、同じ数だけ開業数があっても率は低くでるわけだ。日本には、百年企業など長生き企業が多いことも、数値に影響しているかも知れない。

この開業数を、国は2倍ほどにしたい模様。しかし待てよ。次の疑問は、「開業率を2倍にしたときの廃業率はどうあるべきと考えているのか?」ということだ。
今年の施策でも、開業前のプランだけで補助金を大盤振る舞いするなどの「?」な施策があったが、そもそも補助金がなければ創業できないというのは、「今は創業すべきでなない」ことがほとんどだ。これまで創業支援策に関わった中で創業者からいろんな名言をいただいたが、創業後5年で上場を果たしたある社長の「創業者の事業評価による奨励金は150万円しかもらえなかったが、今振り返ると、資本金1000万円でやっと創業したばかりの時に(当時の制度の上限であった)400万円ももらっていたら、事業計画にたるみが出てうまく行かなかったかも知れない」という意味の言葉が忘れられない。
もうひとつ、当時何人もの創業者が暗礁に乗り上げたのが、「創業時には事業計画で創業資金の融資を受けられたが、(事業が思う通りに進まずに)1期、2期と赤字決算を出すと、もはや誰も追加融資をしてくれない」というもの。いわゆる創業の「デスバレー」である。

多産多死でも、創業準備や新規開店の設備投資等で経済が(一時的に)活性化すると関係者はいうかも知れない。創業塾の開催数が増えて忙しくなるという創業塾講師陣のように・・・

しかし、これは病気や不健康な国民が増えて国の医療費がうなぎのぼりというのと同じ構造ではないか。

創業支援は、そんなものであっては行けない。補助金を増やせばいいというものでは決してない。ましてや、その人の人生の思いを実現するための「創業」はもっと大切にしてほしい。セーフティネットが整備されないままに安易な創業を推奨するかのような施策で、「開業率」を高めて地域が活性化したかのような錯覚を描かないで欲しい。