陽気な黄色も毒を吐く―3

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 店の時計がきっかり十時を指した頃、自動ドアの前に人影が立った。 

 ドアが開く。
「いらっしゃいませ。」
 元気良く迎えると、一呼吸置いて返事があった。
「おおきに。」
 何故かすぐには入ってこない。すると、椎葉さんが再び、
「いらっしゃい。」
 と、カウンタから声をかけた。その言葉で、人影は恐る恐る店内に入ってくる。自動ドアがようやく閉まる音が聞こえた。本棚の間から目が合うと、その女性はアレッとロボットのような声を上げる。
「新しい人が入ったんですか、道理でポスターがなくなってると思った。」
 へええとやたらに感心しながら、女性はカウンタにくるりと目を移す。椎葉さんが、にこにこして、そうなんですよ、と答えた。
「ああ、鏡君、こちらはヤナギさん。いつもご贔屓にしていただいているんだよ。」
 入ったばかりの従業員に紹介するなんて、余程のお得意様なのだろう、と推測された。そこで整理のために抜き出した本をきちんと本棚に戻し、通路まで出てできる限り丁寧にお辞儀をすると、女性は少し見上げて苦笑した。
「漢数字の『八』に薙刀の『薙』で、『八薙(やなぎ)』と申します。お仕事中にすみません、わざわざ。」
 いえいえ、と返しながら、こちらも早速本題に取りかかる。
「あ、あの、実は『純』のマスターから伝言を預かっているのですが……。」
 途端に八薙さんの表情が消えた。決して強張ったのではない、文字通り消えたのだ。あまりの豹変ぶりに驚きつつも、急いで内容を伝えてしまうことにした。
「新作が入った、とのことでして、八薙様によろしくと……。」
 八薙さんは重々しく頷いた。
「分かりました、おおきに。」


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