8月16日の数字:試作1万回のこだわり

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電気自動車のコアパーツ・リチウムイオン電池。
その開発を支えたのは、果てしない試作にチャレンジし続ける
とてつもない信念である。

次世代自動車のコアパーツといえば、間違いなく電池である。その電池はリチウムイオン電池が本命とされる。このリチウム電池開発に取り組んできたのが、車載用電池開発ベンチャー・リッセル社だ。

同社では「試作品の絶え間ない創造と破壊(日経産業新聞2009年8月11日付1面)」を1万回以上繰り返してきた。電気自動車用の電池にはさまざまな課題がある。蓄電料の問題、重量の問題、安全性の問題、耐久性の問題、充電時間の問題、そしてコストなどなど。

三菱自動車のiMievがようやく販売されるとはいえ、その価格は500万円近くもする。補助金が出るが、その価格はまだまだ一般普及車のレベルではない。しかし、電気自動車には期待がかかっている。二酸化炭素を出さず、ガソリンに依存する必要もないからだ。

そこで今もより高性能でコストを抑えた電池開発が進められている。その先頭を走っているのが、リッセル社というわけだ。同社は三菱化学からスピンアウトした技術者集団である。そして同社の電池開発に賭ける意気込みが現れているのが、その試作回数なのだ。

試作を1万回繰り返す。その執念は想像を絶するといっても良いだろう。まったく世界は異なるが、空手の世界には「稽古は千日をもって極とし、万日をもって真とす」という言葉がある。万日といえば30年、それだけ稽古を続けることで技は本物になるというわけだ。

もとより1回の試作に、丸々1日もかかるわけではないだろう。では、逆に一日に試作を10回繰り返すと考えればどうなるか。これでも試作に要する日にちは丸三年。

それも一年365日、来る日も来る日も同じリチウム電池のおそらくは細部を少しずつ工夫して、変えてみてという作業を繰り返してのこと。こうした努力の積み重ねがiMievに結実しているのだろう。

そのリッセル社がいま取り組んでいるのが、電池価格を一挙に現状の4分の1まで引き下げること。そのためのこだわりが「リチウムイオン電池を超えるのはリチウムイオン電池だ(前掲紙)」というこだわりだ。そこにこだわるからこその1万回の試作なのだと思う。

違う素材に手を出せば、そこに新たな可能性が開けていることは否定できない。しかし、それではこれまで積み重ねてきた試作が無駄になる。どこまでに自分の信念を貫き通すことができるのか。1万回の試作は、その信念の固さの証なのだと思う。