売れるべくして売れた朝カレーの秘密

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お休みの日のブログ、ちょっと長いめ記事の第二弾です。
最近のヒット商品、ハウスの朝カレーを分析してみました。

朝からカレー。そんなん食べるかい、と普通は考える。ところが、これが売れているという。ハウス食品の「めざめるカラダ 朝カレー』だ。 とはいえ、この新製品は単なる逆転の発想だけで製品化されたわけではない。マクロ分析等に基づき、マーケティングの基本となるSTPなど極めて緻密に組み 立てられた戦略が背景にある。売れるべくして売れたマーケティングのお手本となるようなケースなのだ。

マクロ環境=朝型へのシフト

朝、カフェに行ってみると、ここ数年で確実な変化が起こっていることに気づく。以前とは何が変わったのか。勉強したり仕事している人が明らかに増えているのだ。のんびりモーニングセットでも食べて、コーヒーを飲みながら朝の一服をふかす。そんな悠長な過ごし方をしていたのでは、厳しい環境の中、生き残ることさえ難しいのかもしれない。

朝早起きするためには、当然夜更かしなどしていられない。夜の居酒屋から客足が遠のくのもむべなるかな。そもそも、最近の若い人たちはお酒をそんなに飲まないのだ。だから夜はそこそこ早めに寝て、朝起きて仕事したり勉強するといったスタイルが広まった可能性はある。

あるいは夜遅くまで働くことさえ、なかなかまかり通らぬご時世ともいえる。企業サイドとしては、できれば残業代を払いたくない。かといってサービス残業を強いたのでは、いろいろと具合が悪い。だから夜はさっさと帰れ(でも、家かどこかで仕事はちゃんとしろよ)的ムードもあるはずだ。全体的なトレンドとして朝型へのシフトが起こっていたのだ。


朝カレーの巧みなセグメンテーション

例えば『WONDA』なる缶コーヒーがある。国分君と高田のおっさんがコマーシャルで、これでもかとばかりに「朝」イメージを強調している。そのキャッチフレーズが『モーニングショット』、朝専用の缶コーヒーだ。こうした商品が出てくるのも朝型シフトをいち早く読んでいたからだろう。

『WONDA』が狙ったのは、朝のためのコーヒーというセグメントだ。では朝カレーは、どんなセグメントを狙ったのだろうか。朝食について従来は栄養、バランス、手軽、おいしい、健康といったセグメントがあった。が、そこを狙ったのでは今ひとつ斬新さに欠ける。

ここで思い出していただきたいのが、この商品のネーミング『めざめるカラダ 朝カレー』である。実に巧妙なイメージングではないか。カレー=辛い=頭がしゃきっとする。朝カレーとはすなわち、お目覚めスッキリのカレーなのだ。


子を持つ母親にターゲティング

セグメントが定まっていてこそのターゲティングの妙。朝カレーが狙ったのは、子どもを持つ母親である。このターゲティングのうまさに、この商品の成功は大きく依存している。今北純一氏が『マイ・ビジネス・ノート』で提唱されていた「絶対需要」の掘り起こしに成功したのだ。

すなわち母親は朝忙しいのである。とはいえ、子どもの食事は気になるのである。だから、手抜きできて、しかも子どものためになる食事があれば「これこそ、私の求めていたもの」となるはずだ。朝カレーこそは、まさに世の母親たちが飛びつかざるを得ない商品となっているのだ。朝カレーは母親たちに何をアピールしているのだろうか。


母親のための3つのメリット

手間が省けて、子どもが喜び、子どものためになるのだ。まず温め不要である。あつあつごはんにかけるだけでオッケーである。めっちゃ手間が省けるではないか。にもかかわらず、子どもは基本的にカレーが大好きである。「うわ〜、朝からカレーやん。めっちゃうれしいで、母ちゃんおおきに(というのはナニワバージョンですな)」となるだろう。

しかも、である。カレーは脳の血流を良くし集中力を高めるのだ。つまり母親からすれば、思いっきり手間を省きながら、子どもが喜び、かつ子どものためにもなる朝ごはんが、朝カレーなのである。もちろんエンドユーザーとなる子どもたちだって、朝カレーは大歓迎だろう。この組み立て、実によく考えられている。


ポジショニングにもオリジナリティ

その上、ハウスは朝カレーに独自のポジショニングを与えた。これは時間節約を考えたからか(=母親メリット)、あるいは実際のユーザーとなる子どもにとっての食べやすさを重視したからかは、今のところわからない。ともかく従来のレトルトカレーと比べれば、この朝カレーのポジションは明確に違う。

どちらに重点を置いて開発されたのかはおくとする。ただ、いずれにしても『朝ゴハン専用として考え抜いた開発された』イメージは、十分につく。すなわち、お母さんたちにとって、このカレーを選択すべき理由付けとなる。


プロモーションまで抜かりなく

とまあ緻密に組み立てられたであろう戦略があるのだから、プロモーションだって手抜きなしである。「たくましさ」をアピールするために、楽天イーグルスの田中将大投手をイメージキャラクターに起用し、「母親が傾聴する午前中に集中的に(テレビCMを)投入した(日経MJ新聞2009年5月20日、3面)」。

まさか、今年のマー君の大活躍を読んでいたはずもないだろうが、開幕から不動のエースとして連勝街道を突っ走る彼の好調ぶりは、格好のバックアップとなったのではないか。


マーケティングのお手本のような事例

丹念にマクロ分析をした上で流れを読み、セオリーに従ってSTPを組み立てる。しかも狙いは、あくまでも絶対需要である。そこで見えてきたのが、母親への強力なメリット。ここに気がついたとき、企画チームは小躍りして喜んだんじゃないだろうか。

しかも、そうした努力を後押しするかのようなマー君の奇跡的な活躍。売れるべくして売れたカレー、それが『めざめるカラダ 朝カレー』なのだ。