話し方、いくつお持ち?

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たとえば。とても仲のよい友だちと話すとき、とても恐ろしい先輩と話すとき、とても厳しいクライアントと話すとき、とてもきれいな女性と話すとき。たいていの人は話し方を変えますね。

相手によって話し方を変える


おそらく言葉の選び方、話すスピード、抑揚の付け方、声音などをほんの少しずつかもしれないけれど微妙に違ったものとしているはず。相手によって話し方を変える。誰かに教えられなくとも自然にそうしてきたのではないでしょうか。


これは日本語ならではの特長でしょう。その典型的な例が敬語表現だと思います。日本語のように複雑に発達した敬語体系を持つ言語は、世界でもあまり例がありません。


誰に対してもタメ口の人


ところが最近、話し方を一つしか持っていない人が増えていると思いませんか。ときどき驚くのが、年下の人からなんのためらいもなくタメ口で話しかけられること。これには驚くと同時に、ある種の新鮮さを感じることもあります。自分にはできないなあと思い、そのあっけらかんとした態度に羨ましさを感じたりもします。


もちろんタメ口がダメだなどと言うつもりはありません。年上の人に対してタメ口でも構わないとは思います。誰とでも分け隔てなく話せることはある意味では良いことだともいえるでしょう。しかし、それでも一つ、どうしても懸念が残ります。


話し方が一つしかないのは問題?


誰に対しても同じように話す人(たとえばタメ口オンリーみたいな感じですね)は、もしかしたら話し方を『一つしか』知らないのではないかということ。仮に一つしか知らないとしたら、それはやはり少し問題ではないかと思うのです。


何が問題なのか。誰に対しても同じようにしか話せない、ということは誰の・どんな話に対しても同じ一つの聞き方しかできていない可能性をはらんでいる。相手によって話し方を変えるメカニズムは、自分が話している相手を自分なりに識別するシステムがあって初めて起動するはずです。


コミュニケーション能力に関わる問題


ということは同じ話し方しかできない人は、相手を識別するメカニズムを持っていないことになる。相手の違いを気にしないということは、大げさにいえば相手を人としてみていない可能性にまで行き着くかもしれない。もしそうなら、その人のコミュニケーション能力は、相手をきちんと識別して相対している人に比べて低くなる危険性があると思います。


日本語は、会話が交わされる状況に意味が大きく依存する言葉です。音として聞こえるセリフは同じでも、伝えようとしている意味はまったく正反対のケースだってある。


たとえば「お前なんか、大っ嫌いだ」ってセリフ。この意味は『本当に大嫌い』から『本当は大好き』までほとんど正反対の意味をカバーします。そのなかのどのあたりのニュアンスを意味しているのかは、その言葉がどのような状況で、どのような話し方で発せられるかで判断するしかありません。


好むと好まざるとに関わらず、これが日本語の特長の一つでしょう。ところが話し方を一つしか持たない(=聞き方も一つか持たない)人たちは、こうした従来の日本語を使いこなせない可能性がある。


自分の言葉を理解してもらえないとき、自分の思いを正しく受け止めてもらえなかったとき、人はとてもショックを受けます。キレやすい子どもが増えている背景には、こうした日本語力の低下があるのかもしれません。


じゃあ話し方をいくつか持つためにはどうすればいいのか?


有効なのは視点を変える訓練をすること。同じ対象を見ても、人によって感じ方は違います。視点が異なるとモノの見え方も変わってくるわけです。もっとも良い練習方法が自分も含めて三人で一つのテーマについて話をすること。


そこで自分以外の二人の意見をじっくりと聞いてみる。二人の意見の違いは、どんな視点の違いに基づいているのか。さらに二人の視点と自分の視点はどこが、どのように違うのか。他人の視点についてじっくり考えてみる練習をするわけです。


こうやって視点を変える訓練をすれば、相手の視点がわかるようにもなります。相手の見方がわかれば、相手に伝わるように話をすること(話し方を変えるわけですね)もできる、というわけです。