メイキングof『首長パンチ』2 本はこうしてできあがった

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市長は最初、乗り気ではなかった
後に『首長パンチ』となる本を出すことに。
1年後、再選なった樋渡市長と再会した。


前年の夏からちょうど1年、もう一度取材をお願いしたのだ。今回のテーマは『市民病院問題』。救急車に乗った患者がたらい回しにされる事件が起こったり、市民病院が引き続いて閉鎖に追い込まれたり。依然として病院問題は、全国的に混迷の度を深めていた。


その背景に、臨床研修医の大幅な制度改革があることは、別の取材で掴んでいた。いわゆる勤務医を病院が確保する上で、この制度改革はとても大きな影響を与えていたのだ。その影響は広い範囲に及び、これまでは公立病院に先生を送り込んできた側の大学病院でさえ、医師を確保するのが精一杯といった状態に陥っている。ましてや、その大学病院に医師の派遣を頼っていた地方の公立病院は、医師不足に追い込まれて当たり前といった状況だったのだ。


だから、武雄市民病院の問題が、どのように解決されたのかを、ぜひ知りたいと思った。そこで取材を申し込んだところ、快諾いただいたという次第。この病院問題を巡るさまざまな動きこそが、今回の樋渡氏の手になる『首長パンチ』の主要部分である。


とはいえ、市長は最初、本を出すことなどまったく考えていなかった。ただ、全国的なトラブルとなっている市民病院問題を解決するヒントとして、武雄の事例を参考にしてもらえたらいいと。そんな思いがあったからこそ、取材をOKしてくれたのだ。


取材する人間としては話を聞いているうちに、問題の奥深さを改めて知ることになった。この問題は一度限りの取材などでは、本質的な部分を聞き出すことなどできない。そんな思いが強まっていったのだ。おそらくは武雄の事例が、全国の参考になるとも考えた。だから取材が終わり、帰り際に「この内容は、もっともっと深掘りして本にされてはいかがでしょうか」と振ってみたのだ。


といって、その時点で出版する当てがあったわけではない。企画の持っていき方によっては、本になるかもしれない。そんな直感に基づいて、声をかけてみただけだ。これまで2回の取材を通じて、自分なりに理解した樋渡さん像からすれば「それ、おもしろですね。やりましょう」とノリの良い答が返ってくるのではと、少しばかりの期待はあった。


ところが市長の反応はまったく意外なものだった。


「そんな大変なことはやりたくないなあ。もう、争いごとはたくさんだから」と、市長の答はまったく意外なものだった。もちろん、こちらとしてもあくまでも思いつきである。その時は「そうですか」とあっさりと引き下がった。これで終わっていたら、今回『首長パンチ』が世に出ることはなかっただろう(続く)。