アマゾンが秘かに進める革命

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今どきのネットユーザーでアマゾンの名前を知らない人は、ほぼ一人もいないだろう。では、アマゾンが狙っていることは何だろうか。アマゾンが秘かに、しかし着実に進めているもの、それは革命ではないか。
「世界で最も大きな書店」


「世界で最も大きな書店」。1995年、アマゾンがスタートしたとき
の表向きのコンセプトである。ジェフ・ベゾスがニューヨークからシ
アトルへ向かう道中で、ネットを使ってビジネスをするならどんな商
材がベストかを考え抜いた末にたどり着いた答、それが書籍だったと
いう。有名な話だ。


とはいえ1997年の時点では、アマゾンが在庫していた書籍タイトル
はまだわずかに2000程度に過ぎなかった。ビジネスをスタートして
2年後のアマゾンからは現在の姿を想像するべくもない。もう10年
も前のこと、アメリカはドットコムバブルがわき上がろうとしていた
頃だ。


数多いネットベンチャーの中でもたしかにアマゾンは、成長を期待さ
れる筆頭株ではあった。まだ一度も黒字を出していないにもかかわら
ず、その株価はどんどん上がり続けていた。なかにはアマゾンは永久
に利益のでないビジネスモデルだと強固に主張するアナリストがいた
にも関わらずである。つまり扱い書籍数やユーザー数が増えるたびに
アマゾンは巨額のシステム投資を迫られるため、客が増えモノが売れ
るほどシステムコストがかさむ。このいたちごっこが永遠に続くので
はないかと懸念されていたのだ。



「ネット上にある世界最大のマーケットプレイス」


しかし、である。今にして思えば、当時からアマゾンは確実な未来予
測図を描いていたのだ。「未来を予測するもっとも良い方法は、未来
を発明することだ」とアラン・ケイは語った。アマゾンが発明した未
来とは「ネット上にある世界最大のマーケット・プレイス」である。
そして、これこそがアマゾン革命の究極の姿だ。


アマゾンは設立当初から「世界最強の顧客主導型企業」をビジョンに
掲げてもいた。過剰なまでのシステム投資はおそらく、このビジョン
を実現するためである。ネット企業のシステム投資といえば、よく引
き合いに出されるのがGoogleだ。Googleはいまや数十万台(もしか
したら数百万台だったかも)のコンピューターをフル稼動させるコン
ピューター企業でもある。そのGoogleと似たようなシステムをアマ
ゾンも持っているのではないだろうか。


「取扱商品点数1000万点以上」


そう考えてもおかしくないぐらいにアマゾンのシステムは、よくでき
ている。いまアマゾンが扱っている商品数がどれぐらいあるか、ご存
知だろうか。その数なんと1000万を超える。しかも、商品数は未だ
に日々増殖中だという。すこしサイトを見ればすぐわかるように音楽
CD、映画などのDVDなど書籍の親類みたいなものがある。一方で家
電、ゲームソフト/ハード、ガーデニング用品、ハウスウェア、オ
フィス用品にアパレル、ヘルス&ビューティまである。


衣食住遊学健医といった切り口で考えれば、今のところ揃っていない
のは食品、住宅、医薬品といったところだろうか。とはいえこうした
アイテムをアマゾンが将来的にも扱わないという保証はどこにもな
い。


「マス・ニッチ・マーケット」の創造


またアマゾンは書籍一つをとってみても、従来では考えられなかった
マーケットを開拓した。マス・ニッチ・マーケットである。従来なら
単なるニッチで終わっていたマーケットを、ネットの力で束ねること
によってビジネスとして採算の合うマーケットに仕立て上げてしま
う。あるいはネットならではの効率性を活用したロングテールマー
ケットを創造してしまう。いずれもアマゾンのシステムが開拓した
マーケットである。


進化し続けるシステム


その上アマゾンはシステムを常に改善し続けてもいる。たとえばリコ
メンデーション・エンジンである。このシステムが導入されたのは今
から10年ほど前のことだが、当時は画期的なシステムと評価され
た。もちろん現時点でアマゾンのリコメンドが画期的に優れている、
とは決していえないが、それなりにブラッシュアップされ続けている
ことは事実だと思う。


ほかにもアマゾンにはカスタマーレビューやリストマニアなるおすす
め表示システムがある。あるいは「なか見」サービスも取り入れられ
ている。ともかく商品をオススメする『おもてなし(中島聡さん風に
いえば)』を次から次へと繰り出してくる。当然、こうしたサービス
をバックヤードでは巨大なコンピューターシステムと膨大なプログラ
ムが支えているはずだ。


アマゾンのサービスレベルが基準となっている現実


そして、アマゾンによる革命が静かに、しかし水面下で着実に進んで
いる証は、アマゾンユーザーの多くがアマゾンのサービスをネットの
スタンダードとして受け入れている事実にある。決済システムにして
も、アマゾンは常に改良を加えてきており、購買商品を決めてから決
済までの流れがとてもスムーズだ。少なくとも本に関しては1クリッ
クで決済ができて、たいていは次の日に届く、と思っている人が増え
てはいないか。


そんな芸当ができるのは、アマゾンがリアルな(具体的にいえば在
庫・物流などの)システムにも惜しみなく投資をしてきたからこそで
ある。にもかかわらず、アマゾンで買えば確実に安い(少なくともポ
イントがついて、その分だけ割り引いてくれる)。一定金額を超えれ
ば送料も無料となる。そして、仮に求めているのがとてもレアなモノ
だとしても、とりあえずそれがいまアマゾンが扱っているアイテムに
含まれていれば見つかる可能性は高い。


ユーザーの目がアマゾンに慣れてしまえば、アマゾンのサービスが
ネットで買い物をするときのデファクトになる。これこそがアマゾン
が究極的に狙う革命のゴールだろう。そして、この秘かな革命が完全
に成就したとき、アマゾンに勝てる流通業がまだあり得るのかどう
か。5年後のアマゾンでは、何を売っているだろうか。


ひと頃「Googlezon」なる未来予測ビデオがネット上で流行ったこ
とがあった。2008年にGoogleとAmazonが合併してできるとされる
架空の企業の話だが、これがあながち冗談ではないようにも思える。
仮にアマゾンとGoogleが合体したとき、それがどんな企業になるの
か。これを仮想敵として自社のビジネスを考えることは、とても有意
義な思考訓練になると思う。