ほんとうに正解は一つだけ?

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子どもの学力が低下している。OECDが実施した学力テストの結果、日本は数学的応用力、国語読解力、科学的応用力のいずれについても前回の成績を下回った。その背景には実はかなり根源的な問題が潜んでいるのではないだろうか。

日本の子どもは応用問題が苦手


問題の核心は応用力にある。たとえば数学でも単純な計算力なら、日本の子どもたちだって決して捨てたものじゃない。ところが応用問題になるとどうにも苦手となるのはなぜか。計算問題は解き方がほぼ決まっているのに対して、応用問題は自分で解法を考え出さなければならないからではないか。応用問題となるとその解法はたいていの場合一つとは限らない(計算問題でも早く・楽にやる方法はあるけれど)。一つの問題に対するアプローチの仕方はいくつもある。


極端な捉え方かもしれないが、応用問題に関するこうしたアプローチの多様性を日本の子どもたちは本能的に嫌うのではないだろうか(嫌うというほど強い意識はないのかもしれないが)。単純に答えは一つ、解法も一つ。これならすっきりしていているし、安心して問題に取り組むことができる。しかし解法がいくつかあり、もしかしたら答えさえも何通りかある(数学ではそんなことはあり得ないけれども)状態になると途端に居心地が悪くなる。


正解は一つ思考のリスク


こうした思考パターンを「正解は一つ思考」と呼ぶことにする。スパッと答えを出さんかいモードと言ってもよい。きわめて潔いスタンスである。大阪弁なら「ごちゃごちゃ言うてんとはっきりせんかい」といったところか。この潔さを男らしいと表現することも可能だろう。


しかし、そうした(ある意味乱暴な)割り切り方をすれば深刻なリスクを抱えることにもなる。特に数学などではなく現実の問題に対処するときには致命的な誤りを犯す可能性が出てくる。


現実の問題では時間がカギ


なぜなら、現実問題を考えるときには時間軸という不確定要因が必ず入ってくるからだ。時間が経てば、問題の前提となっていた条件はたいていの場合変化する。この変化を計算に入れていないがために過ちを犯すケースが案外多い。さらに最悪なのは条件が変わっているにもかかわらず、現実的な対応を変えないことだろう。


なぜ対応を変えないのか。いったん決めた処置なり判断を変えるのは、過去に下した判断の誤ちを認めることにつながる、と考えるからではないか。このような思考パターンの根底にあるのは「正解は一つしかないはずだ」信仰である。


しかし現実問題に対する正解は、現時点での状況という極めて暫定的な条件の下で、さまざまなパラメーターの組み合わせの中から選ばれる最適解群の一つでしかない。条件が変われば、あるいは考慮に入れるパラメーターが変われば、最適解も必然的に変化する。


起業時との環境の変化を意識しているか


たとえば起業時には「これしかない」と思われた戦略が、競争環境が変化したために修整を余儀なくされる、なんてことは現実ではほとんど日常茶飯事である。ところが人は過去の成功体験にこだわったがために判断を誤るケースが多い。その根っこにあるのが「正解は一つ」と考えてしまいがちな思考パターンにあるのではないだろうか。


少なくとも現実問題を解く場合には、時間による変化という不確定要素が必ず入ってくるのだから、正解は状況に応じて変化すると考えておくべきだろう。


本当に問題なのは何か


さらに、現実問題については本来なら、まず何が真の問題なのかを問うべきである。よく例に挙げられる話だが、たとえば売上が落ちていることは本当の「問題」ではない。本当の問題は、なぜ売上が落ちているのかを問いつめて行った先に浮かび上がってくるものだ。


そこでもし「売上が落ちている」ことを問題と定義してしまうと、解決策は「売上を上げる」ことになる。


売上が落ちている会社ではマネジャーが営業マンに対し「売上が落ちている。これは実に由々しき問題だ。だから、何とか売上を上げろ」とハッパをかけたりする。しかし、これでは何の問題解決にもならないことは明らかだろう。


問題はいくつかある、かもしれない


「正解は一つ」思考につきまとうもう一つの大きなリスクが、こうした問題の単純化だ。答を一つに絞り込むためには、問題も当然一つでなければならない。そう考えてしまうことにもリスクがある。特定の状況を引き起こしている問題は決して一つとは限らないし、仮に一つに思えても、その奥にあるより本質的な問題に分解できることが多い。ここで思考の深さ、粘っこさが問われるわけだが、そうした思考訓練は日本の学校ではあまり重視されていないようだ。


たとえば算数に関して5+7=? といった計算問題はたくさん練習するけれども□(+/ー/×/÷)△=12 といった案配で問題そのものを自分で創りだすような訓練はまずやらない。


特定の状況について、その問題点をリストアップし、各問題の関与の仕方や絡まり具合を見極めること。その上で問題状況を引き起こしている影響度や解消法の選択肢と実施容易性などを総合的に判断して問題に対処する。とっても面倒くさいけれども、こうした訓練をどこかの段階できちんとやることがとても大切だと思う。