あなたの「お時間」How Much?

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格差社会でもっとも貴重なリソースは、間違いなく時間になる。まさに『Time is Money』である。なぜなら、どんな大富豪でもセレブでも一日は24時間と決まっているわけで、つまりは一時間の価値が人によって違ってくる。そこを上手く付いたビジネスがある。

通称ユニバ(こんな呼び方するのは関西だけかもしれないけれど)、正式名称ユニバーサルスタジオ・ジャパンには「エキスプレス・パス」なるオプションチケットがある。このチケットをアトラクションの入り口で見せれば、行列をサクッとパスすることができる(これまた関西弁でいえば『横入り』できるともいう)。


とても便利なチケットである。

 

加えて真夏ドピーカンで汗ダラダラなんて日には「あなた達はそうやって並んでいるのね、お可哀想に。私は後から来たけど、お先に行かせていただくわ」的優越感をくすぐってくれたりもする格差チケットでもある。


これがなぜ格差チケットなのかといえば、それなりの追加料金を支払わないとゲットできないからだ。ユニバでは入場料さえ支払えば本来は追加料金なしですべてのアトラクションを楽しむことができる。そんなの当たり前である。そもそもスタジオ・パスと呼ばれる1日券自体が大人なら一人当たり5800円もするのだ。それだけ払わされて中に入っているにも関わらず、さらに各アトラクションごとにお金がいるということはあり得ないでしょう普通は。それこそ盗人に追い銭みたいな話である。


しかしである。ここが実に巧みに、ある階層や考え方の人たちの心理をついていると思うのだが、中には「5800円も払っているのに、長い行列に並ばないとあかんのかよ(ケッ)」と憤る方もいらっしゃるのだ。あるいは「並ぶぐらいなら帰ろう(5800円はもったいないかもしれないけれど、大切な時間を行列に並んでボーッと過ごすならもっと有意義に時間を使いたい)」と考える方もおられるはずだ。


さらには「なんだよ。もっと金払っても良いからさ、並ばないで済むように何とかしてくれよ」とわがままをおっしゃる方もきっといる。これはビジネスチャンスではないかとユニバでは考えたのだろう。そこで生まれたのが「エクスプレス・パス」なるプレミアムチケットだ。


これだって決して安くはない(ただし、安い/高いの判断はそれによって得られる価値を個人がどう判断するかによるので一概にはいえないけれど)。仮に繁忙期に7種類のアトラクションに乗れるチケットとなると追加料金は5200円にも上る。ほとんど入場料と同じぐらいの追加料金が必要になるわけだ。


ただし値打ちは確かにある。

 

人気アトラクションが2時間待ちとかになっていても、たいていはスッと中に入ることができる。この差は大きい。一つのアトラクションについてすぐに入るための(たとえば2時間待たなくてよいためのコストが(5200÷7=)750円ぐらいだとすれば、これは十分に価値ありと考える人はいるだろう。


実際にそういう人がユニバ入場者の3人から4人に1人ぐらいはいるようだ。追加料金を払ってチケットを買う人は言うまでもなく納得済みで買っているのであり、満足こそすれ文句が出ることはあり得ない。片やユニバサイドではチケットの印刷費だけ(大量に印刷することを考えればタダみたいなものだ)の原価で、追加収益を上げることができるのだからこれほどうれし・おいしい話はない。少なくともチケットを買うお客さんとユニバの間ではwin-winの関係が成立している。


このケースから学ぶべきは「格差社会(このいい方はあまり好きではないけれど、とりあえず普及しているしわかりやすいので使わせてもらう)」では、こうした時間価値の違いがビジネスになるということだ。


実もふたもないいい方をするなら、格差社会は能力差が収入の差に直結する社会ともいえる。すなわち能力によってはどうがんばっても時給1000円がマックスの方(余談になるが日本シリーズMVPとなった中村紀洋選手の今年の年棒400万は、実働時間を計算にいれて大ざっぱに計算すると時給1000円ぐらいになるはずだ)がいれば、片方にはみのもんた氏のように時給300万の人もいる。


そこまで極端な違いはないとしても、仮に時給1000円の人と2000円の人がいたとしよう。するとこの二人にとっての一時間の価値は倍、違うことになる。


しかも時間だけは、誰にとっても有限のリソースである。たとえビル・ゲイツ(とりあえず世界一の金持ちである)だって、寿命を200年に伸ばすことは現時点では不可能なのだ。時間という限られたリソースを可能な限り有効活用したいと考える人はこれから、さらに増えてくるだろう。


と考えれば、すでに時間が相当に貴重&希少なリソース化し、なおかつ時間を買うだけの資力をお持ちの方々がいらっしゃることを私たちは知っている。団塊世代の皆さまだ。彼らに対しては余生をのんびりと充実してとか、これからの資産運用をだとかいった切り口からのマーケティングが展開されているが、それより何より「貴重な時間をもっと有効に使いましょうよ、そのためにはこれでしょう」的サービスの方がずっと訴求力が強いと思うのだがいかがだろうか。


とりあえず「格差社会」マーケティングの最重要キーワードは『時間価値』である。これだけは間違いのないところだと思う。