先週末、放送大学大阪学習センター開設20周年記念講演会で、阪大名誉教授の川北稔氏の講演を聞く機会があった。
会場は、淀屋橋駅から少し西に入ったところにある「大阪倶楽部」という大正時代の建物。初めて訪れたのだが、英国風会員制社交倶楽部としての歴史が100年も続いており、現在も会員1200名余(平均年令72歳)という、私の日常とは少し異次元の世界であった。(
地図と写真[*1] )
さて、講演のテーマは、「東日本大震災と世界システムのゆくえ-歴史の見方-」。講師の川北氏は、我が国のイギリス近世・近代史の第一人者らしい。
クリスマスモードの落ち着いた室内装飾の施されたホールで、地下鉄御堂筋線の事故のため、10分ほど遅れて講演が始まった。
まず、王国と帝国の違いを話される。
王国には王様、帝国では皇帝が統治するが、帝国はできるだけ統治領土を拡げるために内乱(内部の競争)をさけるのに対して、小さな王国がたくさん存在する近世の西ヨーロッパでは、これらの王国(独立した主権国家)が互いに経済競争をしあって発展してきた。
つまり、帝国では内部に競争や成長がないのに対し、近世ヨーロッパでは、「成長パラノイア」に取り憑かれてきたと言える。パラノイアというのは、「偏執狂」と訳され、昨日よりも今日、今日よりも明日。ライバルよりも先に、日々成長しなければならない、経済は成長しなければいけないと、やっきになることを指した表現である。
氏は、これがヨーロッパを中心とする近代の「世界システム」であり、経済の成長を支えてきたので、「パラノイア」は必ずしも悪い意味だけを指すものではないという。
そして、黒船来航・開国・明治維新と辿った我が国の近代史も、外から見れば、日本がこの「世界システム」に組み込まれたと解釈できるのだそうだ。
こうして今や世界システムは、西ヨーロッパから、アメリカ、日本、ロシア、中国にまで及び、世界中が経済競争に組み込まれている。「成長パラノイア」は、一度組み込まれると、脱出することは難しいらしい。交通や通信網の発達もあり、地球規模で世界はひとつのシステムに組み込まれてしまったかのようだ。
私たちは、世界=地球と何気なく思っているが、この世界システムが広がるまでは、キリスト教の世界、イスラムの世界をはじめ、◯◯の世界という独自の世界(システム)が、各地にいっぱいあったとも言える。
しかし、今では、世界中がヨーロッパ起源の世界システムの中にあって、「成長パラノイア」に取り憑かれている…
そうだよなぁ~私たちの毎日はまさに「成長パラノイア」の中で、時間と戦いながらあくせく働き、働くだけではない、新しいことをどんどん勉強して成長しなければ置いてかれるとばかりいろんなことを貪欲に学んでいる。
仕事の場面でも、企業に「成長しなければ存続できませんよ」とアドバイスしている。
納得したところで、氏の話は先に進む。
アメリカにおける、9・11やリーマンショック、そして、東日本大震災での原発事故などが続き、50年くらいの長期サイクルでみると、この「世界システム」が変化している時期にあるのではないか。
節電・脱原発で、いかに経済成長できるのか?
「成長パラノイア」も、たかだか数世紀の話である。歴史学者の氏から見ると、中世の世界システムに戻ることはないけれど、この世界システムも、そろそろ次のシステムに移行するのではないかと、解釈できるようだ。
津波と原発でわかったことは、我々は自然には勝てない、しかも、自分たちが作った道具が自分たちの命と安全を脅かし向かってくるということだ。
さて、私達は、成長パラノイアから、脱出できるのだろうか?
ヨーロッパのEUのような、ぼんやりした緩やかな国の連携体が、今後の世界のあり方を試行しているのかも知れない。急成長しなくとも、長期的に見ればフラットながらも成長している世界システム。
次は、どんなシステムなのかは、明言を避けられたが、最後に明確におっしゃた。
歴史を見ても、「天然の災害でそのまま潰れた社会はない」そうだ。
「成長パラノイア」を核とする近代世界システムの中で復興するのか、はたまた、別の新たな世界システムへの移行が始まっているのか、自分自身もしっかりと、考え見極めたいと思う。
頭を必死で働かせた約90分の講演は、たいへん新鮮で有意義だった。