ORIST技術交流セミナー・ビジネスマッチングブログ第48回勉強会報告

「AIを活用した故障対策の初歩」-MATLABを利用した異常検地・故障予測・原因解析のご紹介-

去る7月20日、製造現場でのAI活用を模索されている方に対して、大阪産業技術研究所によるAI研究事例の紹介、並びに、AI等の数値解析ツールで定評のある、マスワークス合同会社の「MATLAB」を使った異常検知と予知保全の方法を紹介しました。
当日は、オンライン開催でしたが、参加者52名+9名(講演者、事務局含む)と盛況で、AI活用・導入に対する関心の高さが窺えました。

アンケート結果(26名)
・web形式でのセミナーについて:良かった92%

  • これまでも他の主催者でセミナーを受けてきましたが、組織の作り方や、発注の仕方、ベンダーとのやり取りで気を付けるべき点などの説明が多く、ここまで技術的な点まで踏み込んだ説明がなかったため、非常に参考になった。特にMATLABの細かい機能まで説明してもらえて非常に良かった。
  • 弊社は産技研に近いですが、遠隔地からの聴講であっても移動時間も不要なので、時間の有効活用になると思います。

・今回のセミナーで何か得るものがありましたか:あった100%

  • MatLabやMathworksといったツールの特徴がよくわかった。また、事例も具体的でどのようなことを行なうべきであるかわかりやすかった。
  • 破面解析についてのORIST様の取り組み概要が分かりました。

【 パート1 】
「圧力ゲージを対象とした異常検知までの事例紹介」 30分
大阪産業技術研究所:喜多 俊輔 氏 , 朴 忠植 氏

AIの知識を深めたり活用を考えたい方が、知りたくても世の中になかなか情報が上がってこない、AIを導入していく際の背後にある苦労する部分、失敗が起こりそうな部分について焦点を当て、一つの事例として紹介します。
今回の事例では、ガスボンベの残量を表示する圧力ゲージを例に取り、自動で異常を検知する仕組みを考え、その問題点を検証しました。

以下のようなステップにより、AIを利用したシステム運用を考えました。
1.モニタリングシステムの構築 → データ収集に利用
2.画像処理手法と学習モデルの構築 → 撮影された画像(圧力ゲージの針)から数値データを取得
3.時系列データからの異常検知判断
圧力ゲージを対象としたAI利用による異常検知までの事例紹介

1~3を通して苦労しやすい部分としては、3の異常検知がうまくいかず、1のデータ収集・モニタリングシステムの再検討まで戻る必要が出てくるということです。
従って、異常検知に関するシステムの構築は事前の検討が重要であるといえます。
圧力ゲージの異常検知までの流れ

本セミナーでは各ステップそれぞれで苦労した点の詳細が講師により説明されました。一例として、1ではモニタリングの柔軟なパラメータの設定、後処理との兼ね合いなどについて、2では、画像処理を用いる場合と機械学習を用いる場合の両方の選択肢、それぞれに対し作業のポイントの説明がありました。また、3ではホテリング理論による異常検知を採用するまでの注意点について解説がありました。
なお、画像処理(従来手法、非機械学習部分)についてはMATLABを利用しました。
この事例に関連する情報として、大阪産業技術研究所から今秋にアナログメータのデジタル化のハンズオンセミナーが開催される予定です。


【 パート2 】
「時系列信号からできる異常検知と予知保全~MATLABの活用例~」
マスワークス合同会社 : 王 暁星(Xiaoxing Wang)氏

マスワークス合同会社は、2020年から2年連続でデータ学習と機械学習プラットフォーム部門について、世界のリーダー企業の1社に位置づけられています。
MATLAB(マトラボ)というデータ解析のツールベンダーであり、それと同時に、製造業をはじめとする様々な企業のデータを分析するプレイヤーでもあります。
本講演では、王さんがこれまでお客様とのやり取りの中で蓄積してきた、異常検知や予知保全の手法やノウハウについてご紹介いただきました。

最初に各産業における異常検知、予知保全の取り組みの紹介がありました。
次に、開発プログラムの全体概要として、打音検査による異常検査のデモ紹介がありました。アルゴリズム開発から実装まで、MATLABを利用した開発の工程を1-2分にまとめた紹介動画でした。
ディープラーニングによる打音検査動画 リンクURL)

続いて、ピストンポンプのイメージを例にとった、予知保全の理解を促すプレゼンがありました。
メンテナンスが必要(異常検知)、シリンダが詰まった(原因診断)、15時間以内に機械停止(寿命予測)と処理が進むにつれ、予知保全としての目的・機能レベルが高くなります。それにより現場のエンジニアはメンテナンスの最適なタイミングを判断でき、機械の稼働率UPによる収益の増大、メンテナンス量DOWNによるコストの削減が期待できます。
予知保全を実施したいとの問い合わせがお客様からよくあり、手前の異常検知から始められることを強調しているとのことです。
予知保全としての目的・機能レベル
(以降~最後まで、異常検知・予知保全で活用できるアプリの紹介)

異常検知の事例として、産業用カッターから取得されたデータに対するオートエンコーダーを用いた異常検知の事例とMondi社の事例の紹介がありました。
産業用カッターから取得されたデータに対するオートエンコーダーを用いた異常検知の事例

次に予知保全で直面する4つの課題について、簡単に説明がありました。
リンクURL:https://jp.mathworks.com/campaigns/offers/predictive-maintenance-challenges.html

予知保全・異常検知を開発するフローは共通しています。特に重要なのは、特徴量を抽出する部分です。お客様から「どういった特徴抽出をすればよいのか分からない」といった問い合わせがよくあります。そういった場合は、データを画像化することから始めることをお勧めしています。代表的な方法としてスペクトログラムの説明があり、役に立つアプリとして信号アナライザーの紹介がありました。
音データを使った異常検知のデモでは、コンプレッサーの正常音と7種類の異常音を含む計8クラスの音データを使い、これらのデータに対してAIモデルを活用した異音判定がありました。
信号アナライザーを活用して元信号、すなわち8種類の音データに対してスペクトログラムの準備をします。各クラスのスペクトログラムが求まれば、あとはディープラーニングを適用するだけです。ディープラーニングを利用するメリットとしては、それぞれのスペクトログラムの特徴量を画像から自動で見つけ出してくれるという点にあります。


深層学習を使用した音声コマンド認識 リンクURL)

MATLABのドキュメンテーションページにあるディープネットワークの活用のデモや、アプリ:ディープネットワークデザイナーを使った転移学習のデモ、ハイパーパラメーター探索アプリのデモなどもありました。

続いて故障予測の紹介です。故障を予測するうえでは機器の健康インジケーターの作成がポイントとなります。健康インジケーターの作成で重要となるのが、やはり異常をとらえている特徴量です。
加速度センサーによる人の活動認識のデモ。診断特徴デザイナーという予知保全用のアプリを使ったデモでは、複数の特徴量を自動で算出・可視化し、特定してくれるアプリの機能によって、加速度のデータから特徴量が抽出されました(その途中で、劣化モデルのC/C++コードの生成機能の紹介がありました)。
特徴量から健康インジケーターの作成がありましたが、そこでMATLABツールボックスの劣化モデルを使って将来の健康インジケーターの推測、そして故障予測が行われました。
健康インジケーターの推測と故障予測

(最後にシステム展開とMATLAB/Python利用に関しての紹介です)
開発したモデルは様々なシステム展開の方法があります。ここではMATLAB Production ServerやMATLAB Web App Serverの紹介があり、これらを利用することで様々なBIツールと連携した大規模な予知保全システムの構築やエンドユーザーがブラウザからWebアプリ経由で故障予測を確認する、といったことが可能になります。
異常検知システムの全体イメージ

最後にMATLABとPythonの連携方法のセクションでは、既存資産の活用方法が紹介されました。
リンクURL:https://www.youtube.com/watch?v=1YOVQXskbmA

MATLABでは(ツールベンダーではありますが)無料のオンライントレーニングを提供しています。
リンクURL:https://jp.mathworks.com/services/training.html
また、有償のトレーニング、コンサルティングサービスもあります。
リンクURL:https://jp.mathworks.com/services/training.html
リンクURL:https://jp.mathworks.com/services/consulting.html


【パート3】
「金属破断面解析への人工知能の活用に向けた取り組み」
大阪産業技術研究所:濱田 真行 氏

金属破断面解析へAI技術を導入する試みについて発表いただきました。
金属分野では画像から情報を読み取る仕事が多く、AIの活用が期待できる分野です。
目標は、破断面解析におけるCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を実装したソフトウェアの開発です。入力データ(破断面画像)に対する出力結果(クラス:破壊様式)の正解率が80%以上になることが目標です。
今回の発表の内容は破断面のミクロ解析という手法に重点をおいての発表でした。
学習用データの質と量の影響を見極めることがポイントとなり、結果、ミクロ解析画像の分類問題においてはデータの質が分類精度の向上に寄与することが示唆されました。
ソフトウェア開発では異なる環境で開発されたネットワークを実装したPCソフトの開発を予定しています。また、MATLABおよびPythonを用いてHDFファイルをONNX変換したものの動作確認をしているところです。金属破断面解析への人工知能の活用に向けた取り組み

※なお、「金属破断面解析の高度化に向けた取り組み~深層学習や画像処理技術を活用した解析技術の開発(リンクURL)」が、堺市産業振興センターの主催により、11月30日(火)にオンライン開催されます。


質疑応答
Q:アナログの圧力計を画像処理しなくでも、デジタル圧力計を使用したら済むのではないですか。
A:その通りです。今回は装置が取り付けられないという場合の取り組みの事例として紹介しました。

Q:変化する画像をクラス分けするという純粋なアルゴリズムと解釈すれば、いろいろ応用したいです。たとえば、監視カメラでの人の移動とか、いろいろ…
A:動画の中で異常検知をする例はございまして、MATLABのドキュメンテーションページにもそういう例は載っています。また、9月15日に異常検知関連のセミナー(以下URL)を行いますが、そこでも監視カメラでの人の移動や行動解析を紹介する予定です。
https://jp.mathworks.com/company/events/webinars/upcoming/matlab-treasure-box-for-ai-utilization-that-most-companies-do-not-know-3496818.html

Q:過学習を防止するためにデータの水増しをするということですが、なぜこれが過学習の防止に有効なのでしょうか。
A:同じような画像を二回見るということがなくなるからです。過学習を防止することとして、データの水増し方法ですが、とくに画像系では、時間方向にシフト、画像の大きさを変えている、という内容になります。類似度をどんどん遠ざけているので、よりロバスト性を持たせているというところになります。ただ今回のデータでは、必ずしも過学習やらなくても精度に変化はないという可能性もあります。

Q:今回の異常検知と予知保全の実装までの期間は?費用は?プログラマの必要性は?また実装にかかる時間は?
A:やり方次第です。ラズベリーパイの実装ということであれば、MATLABのパッケージであれば直接連携できます。今回の異音の例だと集中して一週間程度で可能だと思います。

Q:価格は?
A:営業の方が詳しいですが、10数万~20万ぐらい。あと、アドオンで10数万足していけます。ライセンスにもよります。(この後、マスワークス合同会社の豊倉さんから補足で具体的な金額の説明がありました)

Q:社内(中小企業)にプログラマーは必要かどうか。
A:MATLABマスターは必ずしも必要ありませんが、知見がある人がいればとりかかりやすくはなります。プログラミングの経験があればなお良いでしょう。

その他金属破断面解析への質疑もありました。
Q:破断原因が、応力の集中荷重で発生して、繰り返し荷重で疲労破壊したと考えられる話でした。しかし、ステンレス鋼のように応力環境下(応力、溶存酸素、PH、シリカ等)で、突如発生する応力腐食割れも考えられる。つまり、原因は1つではなく複合的な原因・破壊及び複合ではない等の特定は可能でしょうか。具体的にSUS316L材の構造物で応力腐食割れが発生したので、2相ステンレスでTIG溶接の構造物を使用しました。有効性はあるでしょうか。
A:個別相談は技術相談の窓口でお願いしますが、有効性はあるのではと思います。絶対ではないですが、一般的な対応としては、2相ステンレスでというのは理にかなった対応をしていると思います。