陽気な黄色も毒を吐く―6

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 常春さんは、紙袋から品物を取り出して確認し、八薙さんの前にかざした。

「あ、それ、この間言うてはった本ですか。」
「そうです。これで解決できるといいのですけれどね。」
 好奇心が顔に出てしまっていたのか、常春さんと目が合うと、彼は素早く紙袋に本を戻し、カウンタの中に隠してしまった。
「ディスプレイ用ですか。」
 あのカクカクをガラスに描いたならば、印象が強いだろう。
「友人のお店のね。」
 なるほど、と頷いて、重大なことを思い出した。
「椎葉からの伝言なのですが……。」
 伝言を聞いて、常春さんは複雑な表情になった。念のため、もう一度、繰り返す。
「くれぐれもきちんとお読みください、とのことです。」
 奥で豆の選定をしていた女性が戻ってきてくすくすと笑っている。
「メモを読まないから、いつももう一回聞く羽目になるんですよ、ねぇ。」
 うむ、と唸った常春さんに、「お読みください。」と駄目を押して軽く睨まれた。
「黒やぎさんと白やぎさんですね。」
 大学ノートを広げた八薙さんが口を挟む。
「次の新作は白やぎさんにしてはどうでしょうか。」
「……前向きに検討いたします。」
 科白とは裏腹に、真っ平ごめんだと顔に書いてある。こっそり笑いながらも、「新作」の言葉に内心で首を傾げた。

 疑問はすぐに解けた。
「今日はキョウ君を無理矢理座らせたから、特別サービス。」
「キョウ」と「特別」がいやに強調される。
「もしかして、『新作』って……」
 八薙さんが代わりに答える。
「それです。毎回思うんですが、凄いですよね。」
「存分に腕を揮わせていただきました。」
 常春さんは胸を張る。

 食後のコーヒーの表面に、クリームで機関車の絵が描かれていた。

 

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