陽気な黄色も毒を吐く―5

  • 投稿者:  
  • 表示回数 2,131

 5

 裏口のチャイムを鳴らし、応答を待つ。

 喫茶『純』は、椎葉堂から数えて五軒目、隣の服地屋さんとは路地を隔てている。
 『純』の前面はガラス張りだが、側面はコンクリート璧だ。前に聞いたところによると、コンクリートをむき出しにしているのは、特に注文をつけてそうしてもらったそうだ。
「椎葉堂から商品のお届けに上がりました。」
 すぐに、きりりとした顔立ちの女性が顔を出す。
「あら、ご苦労様。店長にですよね。少々お待ち下さい。」
 はい、と答え、何故か嫌な予感に襲われた。しかし、紙袋を渡す前に、彼女は引っ込んでしまう。コーヒーの香りがふわりと漂い、本来なら落ち着くところなのに、逆に不安をかき立てられた。
 入ってもらってー、と、常春さんの声が聞こえ、先程の女性が戻ってきた。
「ごめんなさいね、代理は駄目みたいなので……。」
 嫌な予感はいや増した。
 何しろ、この人、目が笑っている。

 座って、と示されたのはカウンタ席だった。
 が、店内にはお客様が一人しか見えず、その上カウンタ席の、勧められた席の隣に座っている。立ちすくんでいると、その人が不意に振り向いた。
「あ、店員さん。」
 八薙さんだった。体ごとこちらに向け直し、椅子の上で軽くお辞儀をする。
「さっきはどうもお邪魔しました。また後で寄らせていただきます。」
 お辞儀を返すと、常春さんが横から口を挟んだ。
「キョウ君、お昼もう食べたん。」
 まだだと答えると、常春さんはにやりと笑って、カウンタの内側から皿に載ったサンドイッチを取り出した。
「配達でお腹空いたやろ、食べていくやんな、な、な。」
「既に決定されている……。」
 ぼそりと八薙さんが突っ込む。
 配達本を差し出しつつ、サンドイッチの前に着席した。
「おおきに。代金は会計の時にお支払いしますので。」
 常春さんが営業スマイルたっぷりに言い、「山松」の親子丼は遠ざかった。
 

back index next