陽気な黄色も毒を吐く―1

陽気な黄色も毒を吐く


 1

 突風が吹いて、古書店で働くことになった。

 経緯はそれほど複雑でない。
 突然飛んできた何かに顔を覆われ、片手で咄嗟にベンチにしがみついた。しがみついたところまでは良かったが、そのベンチというのが、最近流行のリクライニング式だったらしい。衝撃で背もたれがぱったりと水平に開き、商店街が九十度左回転するのを見た。慌てて駆けつけ、助け起こしてくれた人が、先程顔を覆ったものを見せてくれた。それが、古書店のアルバイト募集の大きな張り紙だったというわけだ。

 ここまで話すと、常春(とこはる)さんは腹を抱えて笑い出した。
「リ、リクライニングと、ちゃうし、」
 本棚の間に声が響く。もちろん、今ならそれくらいは分かっている。
「あの時はほんまにそう思ったんですよ。」
「マスター、笑いすぎだね。」
 椎葉(しいは)さんがコーヒーの袋を奥に置いて出てきた。
 問題のベンチは、近く撤去されることになっていて、椎葉さんが「危険、座るな」と書いた紙を貼り付けていたそうだ。しかし座る時にはそんなものはなかったから、きっと風で剥がれるかしてしまったのだろう。
 あ、そうやシイさん、と、常春さんはたった今まで笑い崩れていた顔をきりりと引き締めた。
「こないだの話なんですけど、写真を持ってきましたんで、見てもらえませんか。」
 何やら相談があるらしい。椎葉さんと目が合ったので、頷き返した。
 
 

index next