第10回BMBインタビュー[三元ラセン管工業株式会社]

高嶋氏

新春を迎え2009年最初のBMBインタビューは、経営者ブログの伝道師として活躍されている三元ラセン管工業株式会社の高嶋博社長にお話を伺いました。
■どういうものを製造されているのでしょうか。

フレキシブルチューブ 当社では、フレキシブルチューブ及びベローズの設計・製造を行っています。
フレキシブルチューブは、当社では薄肉の金属製パイプに波型の絞り加工を施した
自由に曲がるチューブをそう呼んでいます。一般的には、外装にステンレスのワイヤーを編み込んだホースとして目にすることが多いかもしれません。
皆さんがよく目にするものでは、家庭用湯沸器に使われています。当社では、家庭用の水道・ガス配管用だけでなく、工業用配管での振動吸収・芯調整・熱膨張吸収用、地震・地盤沈下の対策用タンク根元配管の接合部、半導体製造装置の真空配管用などを製造しています。

ベローズ ベローズは、日本ではジャバラ(蛇腹)ともいい伸縮可能な部品のことで、その伸縮性、バネ性、気密性を利用して、異なる機器間を接続します。これによって位置の“ずれ”を吸収し、気体、流体の「気密」を保つことができます。一般産業用から真空機器、半導体、化学・医薬関連機器、宇宙関連施設、原子力関連に広く使用されています。

■御社の強みを教えて下さい。

主力製品は成形ベローズになりますが、当社の強みは、型を必要とせず、15ミリから850ミリまでの口径を1ミリ単位で製造できることです。そのため、1個、2個の発注を考えられているお客様にとっては、型代が不要なため、低コストで製品を購入できます。
しかも、規格品外のベローズを作っているメーカーは国内でも数社しかないことでしょうか。逆に、存在を知らずに規格品を使っている場合が多いと聞いています。
もう一つは、耐久性は同じでも板厚が薄い製品を提供できることです。また、お客様の要望により、内部研磨(化学研磨)についても、管とベローズになった状態の二度、化学研磨を行って供給していますが、これも強みかも知れません。


ヘリウムリークテスト(編集部:三元ラセンさんでは、製品の信頼性に重点を置いており、ベローズ製品についてはヘリウムリークテストを全数行うなど、出荷段階での検査にも力を入れているそうです。)

■最近の受注状況はどうですか。

景気の関係で新規設備機器の伸びが低下していることや、既存設備機器の稼働率低下の影響もあって、余裕を持った部品確保がシビアになってきていますね。とても厳しくなっていますが、昔からいろいろと環境の変化はありました。

■元々は、水道・ガス管の専業メーカーだったと聞いていますが。

先代の時代には、水道・ガス管の製造をしていましたが、後発メーカーや中国製品などとの価格競争が厳しくなっていましたし、素材のステンレスも腐食の問題があって、樹脂製に置き換わっていくなど厳しい環境でした。

■ステンレスが腐食するんですか?


三元ラセン管工業株式会社 ガスでは腐食がないのですが、水環境でステンレスを使う場合注意する必要があります。一般にさびないと思われていますが、手入れが悪いと水で腐食が進むことがあります。当社ではステンレスは標準品ですが、より腐食に強いステンレス素材(316L)での提供や、お客様の要望に合わせた各種素材での製品提供を行っています。

■それでどう対処されたのでしょう。


ちょうどこのころ、バルブ業界向けのベローズ製造を手がけていた知人の企業が、後継者がいなかったことで事業の引継ぎを頼まれたのです。会社を引き継ぐ前には当方の社員を研修に派遣したり、引き継いだときに先方の社員を引き受けるなどして、ベローズ製造に進出することができました。
このベローズについては、それまでの取引先も継続して取引してくれるということだったのですが、当社の視察に来られて「会社が汚いから」ということで取引してもらえませんでした。

■これが契機となって、3S活動などの社内改革を進めてこられたのですね。

そうです。どこを直したら良いかを教えてくれたようなものです。それからはISO9001の認証取得に向けて、全社一丸となって猛勉強して業務改善に取り組み、2000年2月に無事取得することができました。
そのころはISO9001を取得する企業が珍しかったせいもあって、いろんなところから教えてほしいと頼まれたり、また新しい取引先もどんどん増えてくれました。

ベローズ溶接(編集部:三元ラセンさんでは社員の資格取得を奨励し、資格手当ても積極的に支給するなどして社員の技術力向上にも大いに効果があったようです。工場の壁一面には社員の皆さんが取得された資格認定証が所狭しと掲示されていました。テクノマスターの称号を受けられた社員さんもあります。
このような、全社を挙げての技術に対するモチベーションアップが、型を不要とするベローズ生産方法の開発などにつながっているのでしょう。工場見学させていただいたところ、いろんな製造装置に手作りで何らかの改良が施されていました。)



フレキシブルチューブ製造機械  当社では、新製品開発チームを編成して、新素材によるベローズの開発や新素材の溶接、加工方法の改良等を行っています。現在取り組んでいるもので、同じ板厚でもソフトでしなやかな伸縮を可能にする製品開発を行っています。これにより、よりコンパクトな製品化が可能です。近日中に発表できると思います。

■IT経営百選に選ばれていますが、どのようなきっかけからですか。

営業ツールとして、始めは展示会やホームページということですが、今の時代にITを知らなければいけないと思い、BMB会員の村上氏(株式会社創)のセミナーに参加し、ホームページをリニューアルしました。これが2004年10月です。その途端に、半導体関連の会社から注文が入り、まず、長尺(25メートル)のフレキシブルチューブを他業界(半導体関連など)の配管用として展開できました。業界が異なると別の視点から製品の価値を見てもらえることで、価格競争から脱却していくことができます。

次の年に、村上氏が「これからブログの時代です」と言われて、即ブログを始めました。リニューアル前、2001年にホームページを立ち上げて3年間は得意先が30社もなかったのが、2008年の実績でいうと、ネットからの注文が500件を超えています。振り返ると、ホームページのリニューアルで注文が増えて、ブログでさらに増えたということになりますね。

デジタルドルフィンズ そもそも、ITの取り組みとして、生産管理そのものは早い時期に独自仕様のものを導入していましたが、注文は電話対応でした。先のセミナー繋がりで、現状の電話対応に合った営業ツールとして、これもBMB会員の枚岡合金工具株式会社さんの「デジタルドルフィンズ」を導入しました。電話対応では、どのお客さんで、いつ注文されたもののことか直ぐに分かりませんが、導入により電話対応が正確・迅速になりました。
そういうことをまとめてIT百選に応募したところ選ばれました。特別なIT導入をするのではなく、どういう使い方をして経営の効率を上げているか、強み・弱みの把握がしっかりできているかということが重要になりますね。

■面白い電話の使い方があると聞いていますが。

2007年導入したものですね。担当者が不在の場合、電話を受けた人がメモ書きして残しますよね。この時に名前を間違ったりします。それを防ぐための録音システム(ボイスシステム)を導入しました。録音データがあると、担当者の電話機に通知ランプが点灯しますし、携帯からも聞くことができ、直ぐに担当者からお客様に連絡できるようになりました。

■企業のPRをどのようにしておられますか。


マスコミの取材などは、すべて受けるようにしています。大学等から依頼された講演なども積極的に協力しています。また、行政の行う表彰制度なども応募するようにして、企業の露出度を高めています。中小企業の場合、名前が売れていないため、応募することで自社のブランドを上げていく必要があると思います。

■最後に、BMBに対する要望がありますか。


高嶋氏 この前の第8回オフ会で、デザイナーさんの関与により製品がガラッと変わるんだなと感じました。ものづくりでは、デザイナーさんとの繋がりが大切と思います。中小企業では見た目より技術という傾向が強いですが、見た目も大切だと思いました。
以前、東京のデザイナーが樹脂のベローズで生け花をしていました。そういう感覚は凄いなと感じます。我々ではできないのですが、そういう話があると、加工方法をこうしようと考え、今まで不可能と思っていた絞りの加工ができたり、実際の製品にならなくても、技術力向上に役立つと思います。


■三元ラセンさんは、いろんなところに工夫が表れている会社です。高嶋社長は、ホームページやブログを書くだけでなく様々なアクセス解析ツールを積極的に使いこなしておられます。ボイスシステムの導入や、デジタルドルフィンズなど、シンプルな道具をどう使いこなしていくかの大切さを再認識させていただきました。

[tag:BMBインタビュー 三元ラセン管工業株式会社 フレキシブルチューブ ベローズ]