どうやって価格を5分の1に下げるか

今日のマーケティングブログは、価格戦略について。
現状の5分の1にまで価格を下げて、コストリーダーシップ戦略を取る、
JXエネ社のマーケティングについて考えてみました。
売価270万円を50万円に

半値八掛けどころの騒ぎではない。5分の1以下にまで価格を下げる。そんなことが、果たしてできるのか。それで採算が取れるのか。仮に取れるのだとしたら、これまで暴利を貪っていたのではないか………と勘ぐりたくなるぐらいのサプライズプライスだ。

モノは家庭用燃料電池、扱っているのはJX日鉱日石エネルギー社。同社は「2015年をメドにドイツで家庭用燃料電池事業に参入する。現地企業と組み、技術開発や量産効果で価格を従来型の5分の1の約50万円に下げた最新型を売り込む(日本経済新聞2012年4月20日付朝刊9面)」

価格を決定する上で重要な指標は3つある。顧客視点と競合価格、そして自社のコスト構造だ。まずがんばってコストを抑え、その上でいくら利益を上乗せするかを考える。その時、第一に考えるべきは、顧客が納得する価格がいくらになるか。自社が提供する価値に対して、顧客はどれぐらいの対価を妥当と考えるのか。

価値を3層構造で分析し、顧客の受け止め方を吟味する必要がある。さらに競合製品と比較し、競争優位なプライシングを探っていく。ここでもカギとなるのは、顧客から見た価値である。



顧客にとって価値が同じにしか見えないなら、価格の安い方が選ばれる。顧客から見て価値に差があるのなら『価値の差/価格の差』のバランスを見て、どちらを選ぶかを判断するだろう。価値が高くて価格が安いモノが選ばれるのは、あらためて言うまでもないことだろう。

では、家庭用燃料電池の価格を一気に5分の1にまで下げることが本当にできるのだろうか。

不可能ではないと考える。その理由は下記の4点だ。
1)量産効果
2)素材変更
3)生産過程効率化
4)戦略的プライシング

家庭用燃料電池は、日本が世界のトップランナーだ。とはいえJXが、11年度に販売したのは2100台にとどまる。これを50倍の年間10万台にまで増やせば、量産効果が出ることは間違いない。同時に「発電装置の主要部材の素材を見直したり、人で手組み立てているのを自動化すること(前掲紙)」により、コストを徹底的に絞り込む。

トドメが極めて戦略的な価格設定なのだろう。現状価格の5分の1まで下げられてしまっては、競合に勝ち目はなく、これから先、新規参入を考える企業にとっても、眼前に広がるのはイバラの道しかない。JX社の本当の狙いは、ここにあるのではないだろうか。



すなわち、この『5分の1プライシング』は太陽電池の二の舞を踏まないための価格戦略と考えられる。太陽電池も技術力では、日本企業が世界最先端を突っ走っていた。ところが、いつの間にか価格競争力の強い中国企業に、完全に駆逐されている。太陽電池ではおそらく、中国企業が日本企業の3分の1ぐらいのプライシングを取ってきたのだろう。

そこで家庭用燃料電池では、3分の1を下回る価格を付けた。このプライシングに対して中国企業は「日本企業にできるなら、自分たちも可能」と考えるのか。それとも「いくらなんでも、その価格では初期投資の回収すら難しい」と諦めるのか。

JXの価格戦略とその結果は、これからの日本企業の価格戦略の方向性に大き影響を与えるだろう。



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