LED照明が変えた光の意味

今日のマーケティングブログは、LED照明について。
価格競争から価値競争への転換を狙う家電業界ならではの戦略を採り上げました。

普及率28.6%(マイボイスコム調べ)

LED照明は「普及率16%ライン」を既に超えたようだ。普及率16%とは、「イノベーター理論(1962年、アメリカの社会学者、エベレット・M・ロジャースが提唱)」で重視される臨界値のこと。ある新製品の普及率が16%を超えると、一気にブームが盛り上がり需要が急増する。だからイノベーター&アーリーアダプターに認められるかどうかが、商品普及の鍵を握る。



LED照明は、2010年にシャープが参入してから市場が急拡大した。当時1万円が相場だった市場に、シャープは、まさに半値八掛けとなる4000円で殴りこみをかけた。そこにエコポイントが追い打ちをかけ、ほぼゼロだった市場が爆発的に広がった。

ただし、次のステップとして、イノベーター理論通りに、アーリーマジョリティーが飛びつくかどうか。ここは一工夫がいると考える。なぜなら、いくらLED照明が長寿命性と省エネに優れているとはいえ、照明器具そのものはすでに各家庭に完全に普及しているから。LED照明は、まっさらな市場を創り出したわけではなく、あくまでも従来の照明器具の置き換え需要が狙い目となる。

そこで、新たな置き換え需要を呼び起こすために、家電各社は新たな価値を考え出した。セグメンテーションでいえば、次のようになるだろう。
照明器具>エコ・長寿命>快適な照明

快適な照明とはなにか。

光の明るさと色をきめ細かく調整することで、人に快適な照明を作り出せることがわかったらしい。下図はパナソニックが解析した光の違いによる脳波の生理的変化を示したもの(日経産業新聞2012年4月12日付3面より筆者作成)。



LED照明は「光の波長を制御し、1台の照明器具で様々な明るさや色を出せる(前掲紙)」。LED照明の特性が照明器具に新たな価値をもたらした。照明器具とは本来、その名がそのまま価値を表す製品だ。すなわち暗いところを「照らして明るく」ことが価値である。ところがLED照明は、ただ「照らして明るくする」だけではなく、光の色を変え、明るさを微調整することで『必要に応じた快適な照明』を実現する。



例えば東芝製は「勉強モードに設定すると、一般的に文字が認識しやすいとされる白色系の明かりが室内を照らし出す。おやすみモードでは緑系の明かりを点灯。緑の光は他の光に比べてまぶたを透過しにくく、隣で寝ている人を起こさないように、夜間のちょっとした作業ができる(前掲紙)」。色味を6つのパターンに変更できる。こんな照明器具は、未だかつてなかった。

LED照明は、LEDさえ仕入れることができれば、誰でも作れるほど参入障壁が低い。そこで住宅メーカーやゼネコン、家具メーカーなどが相次いで参入し、価格勝負の大乱戦となっていた。不毛な戦いを避けて勝ち残るためにはどうすればいいのか。パナソニック、シャープ、東芝の各社は、本来の家電メーカーならではの強みを活かして、照明そのものの調整機能で勝負に出たのだろう。

価格競争から価値競争のフェーズに入ったLED照明マーケットで、勝ち残るために家電業界は「快適な光」という中核価値を創出した。これに対抗する別の切り口が出てくるのかどうか。非常に興味深いところだ。