日吉屋(和傘・照明)・・世界に羽ばたく伝統の技

「日吉屋」さんという、伝統を重んじながらも新しい時代に追随している和傘屋さんがあることを知ったのは、中小企業基盤整備機構が運営する中小企業ビジネス支援サイトに「元気なもの作り企業300社」という欄があり、そこで紹介されていたからだ。にわかにどのような会社であるのか知りたくなり、訪問したいと申し入れたところ即座に快い返事を頂いた。

京都市上京区、堀川通を少し東に入った閑静な街並みに一歩踏み入れたところに、京和傘の老舗「日吉屋」があった。店内に足を踏み入れると和傘とともに柔和な光を帯びた美しい和風の照明が目に入り、一瞬これが傘屋さんかと見間違うほどだ。(下の写真は、照明に囲まれた西堀社長)

日吉屋の創業は今から約150年前、江戸時代後期に遡る。表千家や裏千家のご用達という老舗だ。しかし明治時代に始まった西欧化の流れの中で和傘も洋傘にとって替わられ、今では和傘屋は全国でも10軒にとどまり、京都市内では和傘製作は日吉屋だけが残っているだけだ。
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京都では、古来都として長らく栄えた土地柄、早くから和傘が使われてきたが、過度な装飾を排したシンプルさと最高級の素材と技術で仕上げられた上品さを持つ、京都独自の美意識を持つ和傘「京和傘」として発展して来た。

特に日吉屋では店の立地上、茶道との関係が深く、質素な中にも凛とした佇まいを見せる侘び茶の世界に合う野点傘(のだてがさ)などを生み出して来た。そして、今日でも日本の伝統文化を代表する茶道を始め、日本舞踊、歌舞伎などにはなくてはならない道具としての和傘を供給している。

しかし、和傘産業は産業としては衰退の傾向にある。そこで日吉屋は和傘で培った技術を照明という異分野の分野に転用することで、伝統に新たな息吹を吹き込もうとして来た。

今年、4月ドイツのフランクフルトで開催された照明・電気の大規模見本市「Light+Building」に日吉屋が出展したのは和傘ではなく「古都里-KOTORI-」というブランド名をつけた照明器具だ。

日吉屋は照明器具をスイス、ドイツ、フランスなどに輸出している。日吉屋が照明に取り組み始めたのは2005年であった。そして4年目の2009年には年間2000万円の売上に成長した。海外にまで市場を広げたのは、このようなニッチ商品で事業を成立させるには国内のみでは不十分であるからだ。欧米向けの製品は、主としてホテルやレストランなどの業務用に絞っている。

照明に目をつけたのは、和傘と照明の相性の良さだという。和傘には開閉が自在にできる竹素材の骨組みの幾何学的な造形と、和紙が透過する光の美しさがある。内部に光源を置いて傘を動かすと、影の形や光の透け方も変化する。

この照明は勿論日本国内においても人気を博したが、海外でも注目を浴び、米国のタイム誌などで取り上げられ、欧米の販売業者と次々と契約を結ぶことに成功した。
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日吉屋は今でこそ、6000万円の売上高となり海外販売も手がけるが、1997年頃には年商100万円にまで落ち込み、廃業寸前であった。当時西堀社長(35歳)は和歌山市新宮市役所の観光課に勤める公務員であった。日吉屋は奥さんの実家。業績の厳しい時期、両家全員が反対する中で、西堀社長はあえて跡をついで5代目になることを決意した。

西堀社長がこのように決意した背景には次のようなカナダ・トロントで勉学に励んでいた時の外国人の友人との出会いにある。外国人の友人は自国の文化のことを詳しく知っている。これに対し友人から日本文化のことを聞かれて何も答えられない自分がいた。日本文化のことをもっと知らなければならないとその時感じた。日本文化への興味を掻き立てられた。

そして、初めて日吉屋に行った時、率直に素晴らしいと思った。これほど素晴らしいモノつくりの文化を捨ててしまうのは惜しいと感じたという。

その後、新宮市から毎週京都に通った。職人の作業をビデオで撮影し、帰宅してから作業を真似して修業に励んだ。2003年に正式に跡を継ぐと、観光課時代に培ったウエブサイト構築のノウハウを生かしてネット販売を軌道に乗せた。このネット通販という手段を用いることで大きな潜在需要を掘り起こすことに成功し、現在に至っている。
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マーケティングと商品開発の面から日吉屋さんの特徴的なことを挙げると、必要に応じて、外部のデザイナー、ブランドの専門家、照明メーカー、建築デザイナー等との異分野の人との共同開発を行っていることだ。古都里については、和傘職人の常識になかった傘の上部を開く斬新な構造を採用し、円筒形のランプシェードを実現。伝統と革新的なデザインの組み合わせはメディアの間で話題になった。

現時点での傘と照明の割合は売上比で5:1だという。販路は今後、海外の代理店との契約を強化し、海外に注力する予定。商品の納期は約1ヶ月。

日吉屋さんは最近は「女性自身」、「日経ビジネス」などの雑誌や、多くのメディアに取り挙げられたので、知名度が高くなり、就職希望者が多く押し寄せるという。

従業員は7名。いずれもまだ20代の若者である。お伺いした時には一心不乱に働いている若者を見て、日吉屋さんの明るい未来を感じた。因みに日吉屋さんは「2009年元気なモノ作り中小企業300社(中小企業基盤整備機構)」に選ばれている。
尚、日吉屋では体験工房での実習も受け入れている。

by 八木: http://homepage3.nifty.com/yagikeieioffice/

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日吉屋玄関前
に立つ西堀社長

 

 

 

 

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