オバマのChangeが日本にもたらす悪夢

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オバマ政権が誕生して7ヶ月弱。「Change」を合言葉に誕生した新政権は、世界をどう変えていくのだろうか? 宮台真司『日本の難点』にあった興味深い視点をもとに考えてみた。
「愛される米国」

宮台真司『日本の難点』にとても興味深い視点が記されていた。少し引用すると

「『オバマのアメリカ』は二つの柱を持ちます。第一は「愛される米国』。第二は「集積効果」。第一点から説明しましょう。オバマは10万人の雇用に1兆円使う計算で300万人の雇用を生み出すことを含めた、大規模な財政出動を宣言しています。目下の状況では不可避不可欠な「ケインズ政策」です。
でも米国は大規模な財政赤字と貿易赤字を抱えます。金融崩壊以前はドル建ての投資を呼び込むことでドル暴落を防いできました。もはやこの手法が使えない以上、中国や日本や諸外国に米国債をドル建てで買ってもらう以外ありません。米国が高飛車な態度を取ることは全く不可能になりました(同書、170ページ)」。

オバマ氏の『Change』は、まず「(米国債を買ってくれる国=中国、日本、その他から)愛される米国」に変わること。これが宮台氏の見立てである。


「愛される米国」と中国の関係

米国債がどうなるのか。これは、世界中に散らばっている米国債を持っている国、投資家の最重要関心だろう。なかでも中国である。同国は昨年9月、日本を抜いて世界最大の米国債保有国となった。そしてすでに世界第二位の経済大国でもある。

その中国が約56兆5600億円、日本は55兆4200億円(→ http://www.afpbb.com/article/economy/2540806/3534433)。わずかとはいえ中国の方が米国債をたくさん持っている。もちろん、これで打ち止めではない。『これから』アメリカは、300万人の雇用を維持するために30兆円の財政出動をする。財源は国債である。その引き受け手として期待されているのは、誰か。経済力を考えれば、第一が中国であり、続くのが日本なのだろう。


日本にとってのアメリカ、アメリカにとっての日本

では、米国の視点から見れば、中国と日本にはどんな違いがあるだろうか。『日本の難点』によれば、日本は以前からひたすらアメリカの年次改革要望書の要求に従っていたのだという。

「あまり知られていませんが、学校完全週休二日制実施も、郵政民営化も、裁判員制度導入も、米国資本に有利なゲームへとシフトさせるべく、米国が年次改革要望書で要求していたことなのです(前掲書33ページ)」。

これが事実だとすれば、米国債の受け入れ要求に対しても日本は抗う術を持たないことになる。米国の年次改革要望書を見たわけではないので、その存在と内容については判断を留保する。

しかし、ある大学教授から聴いた話では、日本は戦後のある時期で医療用品の受け入れ(米国製品の輸入)と自動車の輸出をバーターしたという。だから医療器具、医療用製品は馬鹿高いアメリカ製を買い続けるしかないのだと。

あるいは戦後の日米安保、米国による日本の安全保障維持から食糧確保、さらには自動車業界に象徴される日本のメーカーのアメリカ依存状況などを総合的に踏まえるなら、日本とアメリカが「抜き差しならない」関係、それも日本がアメリカに対して従属的であることはほぼ間違いないのではないか。


日米関係と日中関係の違い

ではアメリカにとっての中国とは、どんな存在になるのか。日本同様、年次改善要望書を中国にも突きつけることは可能なのだろうか。答は『あり得ない』である。

アメリカは日本に対しては高飛車に出ることはできても、中国に同じ態度を取ることは絶対に無理ということだ。さらに突っ込むなら「米国債」を人質に取られたアメリカは今後、中国のご機嫌を損なうような行動をとることは一切できなくなった、とも考えられる。

その証拠がガイトナー財務長官の訪中だ。国内情勢がようやく落ち着きかけた5月はじめ(だったと記憶するが定かではない)、同氏はとる物もとりあえずといった趣で中国に出向いた。目的は一つ、今後も継続的に米国債を買い支えてくれるよう「頭を下げる」ことしかない。ちなみにその時ガイトナー氏は日本をさくっとスルーしている。GMの破綻処理の合間を縫っての訪中とあれば、いつでも言うことを聞く日本にまでリップサービスしにくる余裕はなかったのだろう。

逆にいえば、GM処理が絡んでいるだけに、何としても今は中国の協力が必要だったということではないか。


駐日大使と駐中大使の違い

アメリカの中国に対する気の遣いようは、大使人事にも表れている。駐中国大使に指名されたのは、民主党ではなく共和党のハンツマン氏。同氏は中国語に堪能で、中国を理解し、米中間の貿易問題にも精通しているという(→ http://www.business-i.jp/news/bb-page/news/200905200017a.nwc).

「一方で駐日大使に決まったジョン・ルース氏はどうか。外交経験はなく、大使としての手腕も未知数(→ http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090601-OYT1T01173.htm)」らしい。駐中大使のハンツマン氏は中国語に堪能だが、ルース氏は日本語を理解しない。そもそも職歴は弁護士であり、日本についての知見もない。

それでも駐日大使は務まる、との判断が、この人事の背景にはある。深読みするなら、駐日大使は日本ついて特に何かを深く理解する必要はなく、むしろ弁護士として培ったスピーチテクニックを駆使して論理的恫喝に励め、ぐらいの指示はあったということなのかもしれない。


焦点は中国の『Change』と変わる世界のパワーバランス

では、中国はこうした一連のアメリカの動きをどう読むか。千載一遇のチャンス到来、と考えるはずだ。もとより中国にしても経済状況が盤石などとは決して言えない。相変わらず8%程度の経済成長を維持しているとはいえ、内実は相当に危なっかしいのだと思う。

だからこそアメリカが中国に対して絶対に強く出られない現状を、どうすれば最大限、自国にとって有利に活用できるかを考え抜いているに違いない。まずは来年の上海万博で、いかに国威を発揚するかが目下の課題なのだ。そこで米国の力をいかに活用するか。

民主化要求、少数民族問題、資源に環境、格差の進行などなど、およそありとあらゆる社会問題を抱えているのが、いまの中国ともいえる。個々の問題解決に、いまのポジションがもたらす力をどうすれば使えるかを考えているだろう。

それが具体的な行動となった時にアジアのパワーバランスは大きく変わる可能性がある。日本として何より注意しておくべきは、感情的には目の上のたんこぶでありながら、これまでのところは経済的に依存関係にならざるを得なかった日本との関係をどう切ってくるか。

すでに兆候はある。レアメタルなどは、いくら金を積んでも日本には(レアメタルの場合、相手国は日本だけに限定していないはずだが)売らない、という判断が下されている。ごくささいなレベルでいえば、割り箸だってそうである。コンビニでラーメンを買ったときに「割り箸はおつけしますか」とたずねられるようになったのは、中国が割り箸の輸出を制限したからだ。

じゃ中国産食品はどうなるだろうか。農薬汚染の恐れがあるとはいえ、現実問題として「中国が日本に食料は輸出しない」と宣言したとき、私たちは何を食べればいいのか。

あるいは中国の力が突出し始めた時にロシアやインドはどう対応するのか。アメリカ、中国、ロシアにインドといえば、いずれも日本企業にとっても生命線となる重要な拠点でもある。中国の進路とそれが及ぼす影響は、よくよく考えておく必要があると思う。