日本を捨てたキリン&サントリーから学ぶべきこと

  • 投稿者:  
  • 表示回数 2,233
何ともいえない唐突感のあったサントリーとキリンの経営統合だが、その背景をじっくりと考えてみよう。そこからは「切羽詰まった」ということばしか浮かんでこないように思える。日曜日なので、普段とちょっと趣を変えて長めのレポートを書いてみました。
酒類大型再編

キリンは国内食品最大手、サントリーは2位。この両者が経営統合をめざすことになった。独占禁止法との絡みなどまだ余談は許さないとはいえ、仮に実現すればどうなるのか。ビール、ウイスキー、ワイン、清涼飲料水などで断トツのガリバー企業が登場することになる。

2008年度の売上でみれば、両社あわせて約3兆8000億円。売上ベースでは、ビール業界でいま世界首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブを上回る。食品メーカーの総合順位でみても世界で第5位。ビールメーカーなら日本でもほかにアサヒとサッポロがあるが、この二社が今さら対抗合併に走ってももはやまったく歯が立たない。

となれば両社に残された選択肢は、頭を下げてサントリー・キリン連合に入れてもらうか(サッポロにとってはありかもしれない)、あるいは海外メーカーと手を組むか(アサヒが狙うのはこちらだろう)。それとも独自の生き残り策を考えるか。アサヒ、サッポロの経営陣はいま、真っ青になっているのではないか。


なぜ、いま経営統合なのか

今回の一件は京都新聞の社説にも取り上げられている(京都新聞2009年7月15日朝刊7面)。社説では今回の背景として次のような説明があった。
「両社の存立基盤である国内市場は現在は好調だが、少子高齢化で将来的には縮小が避けられない。有力大手が組む強者連合で国内市場の変化に柔軟に対応しながら、成長が見込める海外市場を共同開拓して、国際競争で生き残りをめざす戦略だ(前掲紙)」

ポイントは最後の一行に尽きる。間違いなく両社は「国際競争で生き残り」を賭けて経営統合に踏み切ったのだ。つまり、今後生き残る道は国際競争で勝つしかないと踏んだ。国内にとどまっていては、企業存続すら危ういと考えたはずだ。


日本ではもはや生き残れないのか

ではなぜ、日本では生き残れないのか。市場がないからだ。両社合わせて約3兆8000億円の売上さえ、いずれ日本では維持できなくなる。これが両社の危機感だろう。

でなければ、今のところ経営上特に大きな問題を抱えているわけでもない両社が合併する意味がない。それぐらい激しい危機感、日本だけでビジネスしていてはゴーイングコンサーンを維持できない恐怖感に襲われての動きが今回の唐突な経営統合の裏にある。その意味を、エンドユーザーを相手にビジネスしているすべての企業は、噛みしめる必要があると思う。


少子高齢の未来像

改めて日本が少子化社会になっている意味を真剣に考え直すべきではないか。少子化社会は今後、F1、M1世代からF2、M2世代ぐらいまでをターゲットとするすべてのビジネスに影響をもたらす。

口(あるいは胃袋と言ってもいいかもしれない)の数が直接影響する飲料、食料品はいうまでもない。外食産業もダメである。衣料品もちろんアウトだ。衣食住といった人が生きていく上で必要となる基本要素に絡むビジネスはすべて凋落するしかない。

遊学動もお先真っ暗だ。すでに大学が潰れ始めている。この動きは今後増えることはあっても、減ることは絶対にない。自動車もすでに売れなくなっている。若年層の自動車保有率は、少なくとも都市圏では完全に右肩下がりになっている。

エンターテイメントだって、全体的な市場を考えれば縮小していかざるを得ない。ケータイに代表される通信系も売上規模は落ちていかざるを得ないだろう。人口が減るというのは、そういう社会になるということだ。


格差社会の固定で購買力はさらに低下

さらに、悪い予想を重ねてみる。格差社会の固定化である。格差社会の本質的な問題点は、世代を重ねることによる格差の『拡大』再生産と固定化にある。

ひとたび「下層社会」にひとたび位置づけられてしまったら、そこから這い上がる可能性はどんどん小さくなり、何もしなければさらに下流へと自然に流れていく。問題の根幹は教育に対する忌避の正統化だ。簡単にいえば親の世代が教育に対する意味を見出せないために、子どもにも教育に対する否定的な価値観を刷り込む。

教育がすべてではないが、少なくともまともな教育を受けていない人が下層から上層へとジャンプアップできる確率は、うんと小さくなるだろう。もちろん運動や芸能など持って生まれたタレントで勝負できるジャンルがあるけれど、そんな恵まれた人たちがどれぐらいの確率でいるだろうか。


可処分所得に余裕ある人たちが減っていく未来

これがマーケットにどんな影響を与えるか。いわゆる一億総中流社会が、少数の上流階層と多数の下層階層に二極分化し始めることになるだろう。その比率は最終的に上流2割、中流2割、下層6割ぐらいに落ち着いていくのではないか。

すなわち可処分所得に余裕のある購買層がどんどん減って行くことになるはずだ。必然的に将来の若者の総合的な購買力は、漸進的に減っていくのだ。

こうした事態を、ほぼ確実な未来としてキリンとサントリーは読んだ。特に危機感が強かったのは「次世代研究所」をもつサントリーではないか。どう考えても日本国内のマーケットだけを相手にしていたのでは、企業存続が難しい。だから同族経営、非上場というこれまでのサントリーアイデンティティを捨ててまでキリンとの経営統合に走った。

両社が予測した暗い日本の未来は、いつから始まるのか。この時期をまず真剣に考える必要があるだろう。それより何より、エンドユーザーを相手にビジネスをしている企業はすべて、この激烈とさえいえる両社の危機感から学ぶべきはないだろうか。