「スマイル 0円」ってなんやねん?

近年では英語の”Business”はそのまま”ビジネス”という言葉として定着していますが、訳語としては、”商売”とされています。
しかし、ビジネスと商売の間には埋めがたい程の違いがあるように思います。

これはあくまで僕の感覚なのですが、”商売”における商取引には「買って頂く」という感覚というか、顧客に対して「買って頂いてありがとうございます」という感謝の気持ちが含まれているように思います。
対して、米国を筆頭とするグローバルな”ビジネス”における商取引にはそのような「気持ち」の入り込む余地はなく、もっとクールでロジカルなもののように感じるのです。

言い換えると、日本人にとって、”商売”としての商取引には、顧客に対する感謝や『買って頂く」という気持ちというか心のありようのような、顧客と のメンタルな関係性を含んでいるのに対し、欧米人にとっての”ビジネス”としての商取引は、需要に応える供給であって、顧客との関係はひとつの論理的な契 約であると位置づけられていて、そこに感情的(メンタルな)な関係性は含まれていない。と、考えられるのではないでしょうか。

で、「スマイル 0円」です。

日本のマクドナルドには「スマイル 0円」というメニューがありますが、本国アメリカにはなく、日本だけのものだと聞きます。
スマイルはいうまでもなく笑顔です。
笑顔というのは、感情が表に出たものです。その感情の発露である笑顔が、日本ではメニューに入るその理由こそが、上記の”商売”と”ビジネス”の違い故ではないか、と思うのです。

マクドナルドという会社は、品質や味が均一で安価なハンバーガーを広く提供することで利益を得るのがビジネスモデルです。

店舗での販売を、”ビジネス”の目で見て「顧客に対する製品の提供とその代金を徴収する契約の場」だと考えれば、そこに笑顔は必要ありません。しか し同じことを”商売”の目で見ると、「顧客に商品を買って頂き、感謝し、その気持ちを態度で示す場」という事になり、笑顔で顧客に対峙することが”商売” そのものということになるのです。

マクドナルドが日本でビジネスを展開するにあたって、そのビジネスモデルを日本人の商取引の慣習に摺り合わせ、定着させるために。また、消費者もそ の日本的な関係性を無意識に当たり前のこととして求めていて、そのことにマクドナルドが気づいたことから「スマイル 0円」ができたと言えるのではないでしょうか?

“ビジネス”と”商売”、これはどちらが優れている/劣っているとか、どちらが良い/悪いというものではないのでしょう。
それぞれの歴史や慣習、何を母国語にするかによっても違っているものだと思います。

日本はその経済規模の割に、海外進出する企業、特にサービス業が少ないといわれます。
商習慣や言葉の違いがその原因と言われていますが、僕には商習慣というより、「商売」という言葉の持つ感覚というか範囲が、「ビジネス」という言葉と違う点をまだ整理/克服できていないためではないか?と思います。

“ビジネス”に「顧客への感謝という関係性」をプラスしたものを”商売”と考えて、文化の違う海外の方にもわかる形で提供できるようになれば、日本のサービス業は大きな輸出産業になりうるのではないか?そんなことを夢想するのでありました。