二つの『三つの視点』

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「そんなの簡単じゃん、上から見りゃいいんだよ」。サッカー・スコットランドリーグでMVPとなった中村俊輔選手の言葉。イタリアで車一台分ギリギリのスペースに、彼がスパッと一発で車を止めた時の話だ。

鳥になったつもりの視点


車体と空いているスペースの関係、ハンドルを切ることによってスペースと車の位置がどう変わるかは、確かに上から見るとよくわかる。といってもビルの屋上に登って車を遠隔操作、なんて話ではもちろんない。


運転席にいながら中村選手は、車の位置と空きスペースの位置を頭の中で俯瞰的にイメージングできる。『鳥の目』である。この鳥の視点を中村選手はゲーム中も意識しているという。イメージとしては次のような感じだろう。


自分のところにボールが来そうな瞬間、彼は一気にフィールドの上10メートルぐらいまで意識を飛ばす。その高さからなら敵味方全プレイヤーの動きを一望にできる。穴はどこにあるのか、穴に対して味方の誰がどう動こうとしているのかが『見える』。見えるから、その味方が求めるようなパスを出すことができる。ファンタジスタのプレイだ。


虫の視点の中田英寿


サッカー選手の視点の良さでは中田選手も有名だった。ただし彼の場合はボディバランスが優れているから、常に視線がぶれないといった誉め方だったと記憶する。いわゆる『虫の視点』、つまり現場情報を的確に掴む視点だ。


加えて確実に戦いに勝つためにはもう一つ『魚の視点』が必要だ。すなわち全体的な流れを読む視点である。水面ではなく、水面下の動きへの目配りが求められる監督の仕事だろう。


チームが有機的に機能するためには役割分担が必要だ。『鳥の目』に優れる中村俊介のようなプレイヤーがいれば、彼には俯瞰的な視点からのプレイ、つまりゲームメイクを任せればいい。現場で指示を出しメンバーを鼓舞する役目は中田のような選手の仕事、そして監督がゲームの大局的な流れを読んで采配する。あとは個々のプレイヤーが求められる役割をどれだけきちんとこなせるか。勝負の分かれ目はここに極まる。


経営に必要な鳥の目・虫の目・魚の目


ビジネスにおいても、これと同じようなフォーメーションを組める人材が揃っているのが理想だ。トップには『魚の目』、ナンバー2で実務を取り仕切る人間には『虫の目』、アイデアマンには『鳥の目』。経営陣にこんな人材が揃っている企業は強いだろう。


実際にはトップまで上り詰める人物は、三つの目を兼ね備えていることが多い。なぜならトップに至るまでの過程で、三つの目それぞれを要求される局面が必ず巡ってくる。そこを乗り越えた人物がトップにたどり着けるのだ。いずれの視点においても常人よりも優れていて、なおかつ最終的には『魚の目』がずば抜けていること。これがトップの条件なのかもしれない。


野口悠紀雄の三つの視点


もう一種類、自分がプランニングやコンサルティグを請け負う時に大切にしている『三つの視点』がある。野口悠紀雄先生に教えてもらったものだ。


すなわちシャーロック・ホームズの視点。シュテファン・ツバイクの視点。絵を見る時の野口悠紀雄の視点。この三つである。


あるはずなのに、ないものを探す


シャーロック・ホームズの視点とは、あってしかるべきはずなのに現実にはないものに目を向ける視点である。本来ならそこに必ずあるはずのものが欠けているとすれば、必ず何か原因がある。その原因を探る。


シュテファン・ツバイクの視点とは、およそ政治的・民族的・歴史的特性などを離れてすべてを純粋に経済学的に見る視点だ。(経済)合理的に考えればどうなるのかを常に意識せよ、という意味だ。


絵を見る時の野口氏の視点とは、絵のテーマよりも背景を注視する視点である。『鳥の目』と『魚の目』をあわせたような視点だと思う。目の前の事象だけに捉われず、より大きな範囲からその出来事を見ることが大切というわけだ。


問題解決を求められる時には、野口式三つの視点が役立つことが多い。


意識して視点を変える


とはいえ視点を変えることは意識しないとそう簡単にはできない。ただ視点チェンジができるのとできないのとでは、物事を考える上でも、人とのコミュニケーションを深めるためにも、大きな違いが出てくる。何よりいろんな視点を持てれば自分が楽しい。それにいろんな面で得することも確かだし。


とりあえず、とっつきやすくておもしろいのは『鳥の目』。だまされたと思って、やってご覧じろ。物事の見え方が、たぶん変わるから。