Wiiはなぜ、売れるのか

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Wiiフィットは発売後わずか1ヶ月で100万台を突破し、未だに売れ続けている。その売上の増え方はWii用ソフトとしては最速ペースだという。パッと見には体重計にしか見えないゲーム機が、なぜこれほどまでに売れたのだろうか。

足し算・引き算に漢字書き取りをゲームに


任天堂はゲームの世界にパラダイムシフトを引き起こした。兆しは以
前からあった。DSである。一昨年の冬ぐらいから売れ出したDSの
ゲームがある。『もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』であ
る。このゲームは松嶋菜々子のテレビコマーシャルのおかげで人気に
火が点いたたと思われている。確かに印象的なCMだったしキャラク
ターも十分に魅力的だった。しかし、あのソフトが大ヒットした本当
の理由は他にある。従来ゲームユーザーではなかった人たちがこぞっ
て買ったからだ。


続いてDSはゲームソフトにまったくあたらしい世界を切り拓く。足
し算・引き算に漢字の書き取りまでをもゲームとしてしまった。幼児
教育のためのツールとして、ゲーム的な要素を取り入れたものは以前
からあった。が、任天堂はこうしたツールとはまったく逆のアプロー
チを採る。主目的・教育、方法論・ゲームではなく、主目的がゲーム
でありその方法論として教育的要素を取り込む。こうした開発された
一連のゲームも新たなユーザーを開拓する。


そしてDSのソフト開発と併行して(あるいは先行して)Wiiの開発が
進められていた。これこそが従来のゲーム像を根底から打ち破る最終
兵器となる。


WiiとPS3、そのベクトルの違い


開発思想の違いは、パーツの活用法を見れば明らかだ。Wiiにはもち
ろん最先端の半導体技術が活用されている。が、その技術を活用する
ベクトルが、たとえばソニーとはまったく異なる。ソニーはPS3のた
めに4600億円もの投資をしてCELLプロセッサを開発した。その結
果、より速く、より豪華な映像をPS3は得る。これも一つの極みであ
る。ただし、CELLが実現したPS3はあくまでも従来型ゲームの延長
線上にある。


しかしWiiは違う。最先端の半導体技術を活用すれば何ができるの
か。発想段階で間口を思いっきり広げた。新たなゲーム開発をゼロ
ベースからスタートさせたともいえるだろう。その結果、採用された
方向性はソニーとはまったく逆である。すなわち最先端の半導体を使
うからこそ、チップを従来より小型化でき、電力消費を抑えることも
でき、マシンを小さくできる。電力消費を抑えられれば一日24時間
中ずっと通電できる。すなわちネットにつなぎっ放しすることが可能
だ。Wiiチャンネルにつながる発想である。


ソニーと任天堂のベクトルは、たとえるなら最先端の自動車技術を活
用してF1をめざすのか、ハイブリッドカーを作るのかといった違い
と同じだ。そもそもベースとなるコンセプトがまったく異なるのだ。
このコンセプトの違いがPS3とWiiの違いである。


そしてコンセプトの違いは、両社のビジネスモデルの違いにその原点
を求めることができる。ビジネスモデルすなわち、誰に、どんな価値
を提供して対価を得るのか。


お父さん、お母さんをファンにする、そのためには


Wiiが目指したのは、従来なら子どもがゲームに夢中になっている姿
を全面的に好ましいとは決して思っていなかったお父さん、お母さん
までが一緒になって楽しめる「おもしろい世界」である。そのために
はゲーム機そのものも子供部屋ではなく、家族が揃うリビングに置か
れなければならない。だから、あのデザインなのだ。いかにも子ども
のオモチャっぽい仕上がりでは、テレビまわりに置かれたときに違和
感が出る。なじむサイズ、デザインを求めて徹底した吟味が加えられ
た。


さらにコントローラーである。ゲーム機を操るインターフェイスはこ
れまでコントローラーと呼ばれてきた。しかしWiiは違う。「リモコ
ン」である。テレビのリモコンと同じように家族誰もが難なく操作で
きるデバイス、だからリモコン。コントローラーを操ることのできる
のはゲーマーだが、リモコンはそうじゃない。


その開発に当たっては「手で持つことすらリセットしてよい」ことが
社内的なコンセンサスとなっていた。何のためにかといえば、新たな
ターゲットに新たなゲームの楽しさを届けるためにだ。


懸念はあった。従来のコントローラーとはあまりにかけ離れた形状
が、これまでのゲームユーザーやゲームデザイナーから反発されるの
ではないか。あるいは過去のソフトを操作できなくなる恐れはない
か、と。しかしリモコンが具体的な姿を現したとき、これらの懸念は
一掃される。開発スタッフの誰もが「いける」と直感した操作性は、
ゲームデザイナーのクリエイティビティをもいたく刺激する。ユー
ザーまた然り。


ヨガや筋トレのゲーム化


リモコン開発のコンセプトが、さらに先鋭化しゲームとして結実した
のがWiiフィットである。コントローラーのモチーフはなんと体重計
である。そして遂には柔軟体操やヨガ、筋トレまでがゲームになっ
た。おもしろければ、何でもゲームになる、というかゲームにしてよ
いのが任天堂なのだ。


このラジカルさはおそらく任天堂の遺伝子のなせる業と言ってよいの
ではないだろうか。「『おもしろさ』とは何かを、うちはずっと追求
しているんですよ」とは以前、同社前社長・山内溥氏からお話を伺っ
たときにもっとも印象に残った言葉だ。そのためには、ともかく変
わったこと、新しいことへのチャレンジを社を挙げて奨励する。人と
違うことをすると「みんなが」ほめてくれる。これが任天堂である。
この任天堂DNAが次に、何をゲームとして見せてくれるのか。とて
も楽しみだ。